男性声優12名がキャラクターに扮してラップをする、ラップソングプロジェクト『ヒプノシスマイク』。一線で活躍するラッパーやトラックメーカーもクリエイターとして参加する、本格派な作品づくりが注目を集めている。マイナビニュースでは全4枚のCDリリースを記念し、各ディビジョンのリーダーを演じるキャストへのインタビューを敢行。第1回に登場するのは、イケブクロ・ディビジョン「Buster Bros!!!」のリーダーを演じる木村昴だ。

6月29日生まれ。ドイツ出身。アトミックモンキー所属。主な出演作は『ドラえもん』ジャイアン/剛田武役、『遊☆戯☆王 VRAINS』草薙翔一役、『ハイキュー!! 烏野高校 VS 白鳥沢学園高校』天童覚役など
撮影:Wataru Nishida(WATAROCK)

木村は、小学生の頃にエミネムと出逢いヒップホップに魅了され、高校時代には同級生とフリースタイル(即興ラップ)に明け暮れ、バトルへの出場経験もある筋金入りのヘッズ。現在も、声優のかたわら、ヒップホップグループNEW JAPP HEROZとしてライブ活動を行っている。『ヒプノシスマイク』では「声優」と「ラップ」の媒介者とも言える立ち位置の木村に、作品への熱い想いや、ラップの魅力について語ってもらった。

▼声優としてラップしていいんですか?

――最初に『ヒプノシスマイク』プロジェクトのお話を聞いた時は、どう思いましたか?

「待ってました! ついに来た! 」って感じですね。もともとラップはやっていましたけど、その活動はあまりおおっぴらに言えなかったんです。クラブに出入りしているとか、深夜にライブやるとか、やっぱりイメージが悪いだろうし。それに、自分のアイデンティティとして、あくまで声優であることが第一だったので。でも、この作品の話をいただいて、「え、声優としてラップしていいんですか? みんなの前で羽を伸ばしていいんですか?」って(笑)。本当は一番やりたかったことなので、めちゃめちゃ嬉しかったですね。

――木村さんが、そもそもヒップホップにのめり込んだのは、何がきっかけだったのでしょうか?

僕は1990年にドイツで生まれ、97年に日本に来たんですけど、その時に母親が、「97年に流行った曲を集めたコンピレーションアルバム」を買ってくれたんです。ドイツから日本に移り住むのは家族としても大きな転機で、そんなタイミングで世界にどんな音楽が流れていたか、両親が「音楽で思い出を残したい」ということで僕に買ってくれたんですよ。その中にM.C.ハマー、Run-D.M.C.、エミネムなどの曲が入っていました。

――お母様の買ってくれたアルバムが始まりだったのですね。

そのアルバムにはいろいろな楽曲が入っているんですけど、その中でヒップホップがすごくひっかかったんです。「なんだこの不思議な感じ、超ハマる!」って。うちは父親はオペラ歌手で、母親も声楽のソリスト、僕も3歳からずっとバイオリンをやっているというクラシック一家だったんです。そんな中でヒップホップに触れたときの衝撃ですよ。「こんなのドイツで聴いたことない!」って(笑)。

――それはかなりの衝撃だったでしょうね。

「ヤバイ!」ってハマっちゃって。それで関連するさまざまな本を読んだり、CDを聴いたりするうちに、この曲にはこういうメッセージがあるとか、もっと深い部分も知っていきました。そこから、本当にハマっていきましたね。小・中学校では自分がヤバいと思った曲を友達に聴かせていて、その時の友達の引いた顔にすごい優越感を感じていました(笑)。気持ち良かったですね。

――友達の引いた顔(笑)。どんな曲を聴かせていたのでしょうか?

ZEEBRAさんのアルバム。『THE RHYME ANIMAL』の「Parteechecka (Bright Light Mix)」という曲だったと思います。

▼ヒップホップは平和を築こうとした人のカルチャー

――木村さんはヒップホップのどこに魅力を感じたのでしょうか?

大きな意味では、一つの生きる方法、ライフスタイルっていうところですね。確かに犯罪とか、暴力的なイメージもありますが、もともとのヒップホップは、そこから這い出そうとした人たちの文化。若者同士が争っていたところに、暴力に嫌気が差して、スキルで戦おうということで始まったものなんです。一見暴力的に見えるものだけど、根っこは平和を築こうとした人たちのカルチャーなんだと知って、めちゃくちゃうちのめされました。けっしてラッパーがみんなギャングスタなわけではない。ヒップホップは生活を豊かにしようとした人たちの生き様なんだなと。

――まさに『ヒプノシスマイク』の世界観も、そこから生まれていますよね。木村さんは高校時代、フリースタイルにハマってバトルにも出場したそうですが、その後、即興で作り上げるリリックよりも、緻密に作り込まれたリリックに魅力を感じるようになったとラジオでお話しされていましたね。

日本語のパワーでもあると思うんですけど、一つのことばに色んな意味があることに気づいて、いいなって思ったんです。「こう言っているけど、本当はこういう意味がある」、そういう裏の意味がラップに含まれていると、緻密だなと思って。もちろん、フリースタイルでもそれができる人はいらっしゃるんですよ。たとえば、R-指定さんは、バトルのときに過去のラッパーがバトルで使ったフレーズを使って相手に攻撃するんです。

――文脈がわかると、別の意味が込められていることに気づく、ということですね。

そういうわかる人が聴くと、裏の意味やことばのつながりがわかるようになる、そういう仕掛けがリリックにあるのがすごいなと思ったんですよ。それはラップならではだなって。僕、エミネムにすごいハマっていて、彼のすごいところはやっぱりリリックの詩的なところなんです。有名な「Lose Yourself」という曲の1バース目で「he」とか「his」という表現をしているんですけど、それは全部自分のことを指している。

――エミネム自身が主演した2002年の映画『8 Mile』の主題歌になっている、有名な曲ですよね。

エミネムってスリム・シェイディとか名義がいくつかあるんですけど、インタビューの発言でちょっと叩かれた時に、「あれは俺じゃなくてスリム・シェイディが言ったことだから」と言うんです。彼の中で、自分のことを客観的に見ているところがあって、それをリリックで「彼」と表現してリアルに自分を描いている。そこに美学を感じたんです。そういうリリックに込められた意味のすごさにやられました。あとで気づくお得感というか、ワクワク感。そうすると、もっと他の曲も詳しく聴きたくなるんですよ。