筆者が年金の仕事をしているとき、若い方とSNSでやり取りをする機会がありました。その際、「自分たちは年金を期待できない」「未納が多い国民年金などは信用できない」、だから「自助努力で老後の資金を作る」といった声をよく聞きました。これらの意見は、制度を精査した結果であればよいのですが、多くは制度をしっかり把握しているわけではありません。

  • 国民年金基礎の基礎

つくづく思うのは、社会は不安をあおって関心を引く傾向にあります。人生に大切な制度については、流れに流されずに、不安要素は制度を自分自身でしっかり把握した上で判断を下してほしいことなのです。

国民年金には保険の機能があるって知っています?

国民年金の加入者が、事故や病気で所定の障害を負ったとき、その状態が続く限り生涯にわたって障害基礎年金が支払われます。国民年金は20歳になると加入の義務がありますが、以前は学生の場合は強制されませんでした。

20歳を過ぎた学生が事故などに会い障害を負っても、国民年金に加入していなければ何の保障もありません。生涯働けなくても保障はないのです。実際にあったこうした事例を受けて、「学生納付特例制度」が制定されました。申請すると保険料が免除され、将来その免除期間は年金額には反映されませんが、障害年金等の受給権は発生し、万一障害を負った場合には障害年金が支給されます。保険料はその後一定期間内であれば追納できますので、その期間の年金額を後で確保することも可能です。

2年間追納して増える年金額はわずかと思われるかもしれませんが、収入がなくなる老後には、そのわずかがとても貴重なのです。学生時代はアルバイトしていても収入が不安定なので、安全を考えれば納付特例を利用した方がよいと思いますが、就職後の収入をあてにするのは問題の先送りです。アルバイト収入を貯金しておいて、それを原資をもとに追納するのがベストだと思います。

また、子のある妻または子のみが残された場合も遺族基礎年金が支給されます。「子」とは18歳に到達する年度の末日までの子供のことで、それ以降は遺族年金が打ち切られます。ただし子供がない妻でも40歳以上65歳未満であれば遺族基礎年金が支給されます。

実際に障害年金等を受け取ることかできなく困窮した事例が問題になったから、制度は改定されているはずです。自分は大丈夫とは言い切れないでしょう。

国民年金第1号、第2号、第3号被保険者の違い

■ 第1号被保険者

20歳から60歳未満までの自営業や自由業、農漁業従事者、無職の方など。

■ 第2号被保険者

65歳未満の厚生年金の加入者は自動的に国民年金にも加入することになります。

■ 第3号被保険者

第2号の被保険者に扶養される20歳以上60歳未満の配偶者。ただし収入条件があります。

損得で考えると間違う年金の役割

日本人の多くは生命保険を掛けていると思います。子供が独立するまでは死亡や高度障害時のみに支払われる定期保険に加入していると思います。保険料は安く、原則掛け捨てです。何もなければ掛けた保険料は無駄となります。それでも万一の場合に備えて、多くの方が保険に入っているでしょう。国民年金の老齢基礎年金支給は65歳からですが、60歳からもらうこともできます。当然毎月の年金額は減ります。反対に66歳以降に先延ばしすることもできます。その場合、最大42%も月々の年金額を増やすことができます。

70歳からの支給に引き伸ばしても71歳で死亡すれば、年金の総年金額はわずかで、60歳からもらっておけばよかったと考えるかもしれません。このようにどちらが得かという議論になりがちですが、人間の寿命は推し量れません。生命保険同様、万一の場合に備えるか、安心して暮らすためにはどうすればよいかを考えて判断すべきです。

未納があると何が問題?

未納が多いと不安に感じるかもしれませんが、データは切り取り方によって全く違う印象を与えるものです。厚生労働省が、本来我々が欲しい切り口で情報を提供しているとは限らず、本当はどの程度未納があるのか、実態はわかりません。しかし、そもそも未納ということは、その分将来年金を支払わなくてもよいということです。国民年金(老齢基礎年金)の支払い原資の半分は税金で、残りの半分はみんなが収めた保険料です。未納であれば、税金の拠出も不要ということです。また、万一未納者が死亡したり、障害を負っても障害基礎年金や遺族基礎年金を支払ったりしなくてもよいことになります。損をするのは未納者であって、きちんと収めている人ではないのです。

それよりも所得税も支払わず、保険料も支払わずに年金を受け取る第3号被保険者の存在の方が、不公平だと問題になっています。社会保険の加入対象者は約7000万人程度だそうですが、そのうち約1000万人が第3号被保険者です。保険料の免除を受けたり、未納の人もいたりしますので、5000万人位で、第3号被保険者の年金を負担することになります。未納者には未納の分の年金を支払う必要がありませんが、第3号被保険者は、保険料を支払わずに、その他の被保険者と同等の年金を受け取るのです。

未納者の中には、あえて保険料を支払わない人もいるでしょうが、多くは支払えないのです。保険料免除申請の基準は厳しく、その収入では保険料は支払えないという額でも、該当しなくなるケースが多いのです。第3号の収入条件である年収130万円もあれば、間違いなく該当しないでしょう。第3号被保険者は130万円近く収入があっても保険料は支払わず、第1号被保険者はそれ以下でも保険料を支払わなければならないのです。

領収書は生涯保存しよう!

今までに何度も述べてきたのですが、国民年金の領収書を捨てるということは、生命保険や損害保険の契約証書を捨てると同じことです。口座引き落としやカード決済の場合は、それに代わる通帳等を保管するか、毎年贈られてくる社会保険料控除証明書のコピーなどを保管ください。紛失した場合は社会保険事務所に問い合わせれば再発行も可能ですし、過去の履歴もアウトプットできます。

年金制度を理解するうえで、お勧めするのは制度の仕組みのみを詳細に記述した冊子です。薄いリーフレットとではしっかりした知識獲得には不足です。また著者の考えを中心にしたコラムや単行本もお勧めできません。このレポートも同様で、制度の知識を完全に把握するための、ほんのきっかけでしかありません。是非人生に大切な制度ですので、若い人こそ正確に制度を把握してほしいと願っています。

お勧めの本の一例は「よくわかる 年金制度のあらまし」(株) サンライフ企画。全部で約100ページあります。制度のみを詳細記述したもので、私はほぼ毎年最新版を購入して参考にしています。この本に記述していることでも不足する情報が多くあるので、年金制度は奥が深いです。

■ 筆者プロフィール: 佐藤章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。