東京都墨田区で、3代続く老舗国産Tシャツメーカーの久米繊維工業。同社の取締役会長 久米信行氏は、持ち前の行動力と独自コミュニケーション術でビジネスを成功させている。さらには、人脈やコミュニケーションについ言及したビジネス書も多数執筆。大学での起業教育も行っている。

左から、日比谷尚武氏、久米信行氏、徳本昌大氏

今回、マイナビニュースの別稿で"人脈"について語ってもらった、ビジネスプロデューサー・書評ブロガーの徳本昌大氏とIT企業 Sansanで"コネクタ"という肩書きを持つ日比谷尚武氏に再び登場頂き、久米氏とともに「社会で求められるコミュニケーションのあり方」について語ってもらった。

久米繊維工業は、日本におけるTシャツ製造の先駆けとなった会社だ。1935年の創業以来、熟練した日本の職人によるハンドメイドTシャツの製造を続け、独自のこだわりと高い品質で国産Tシャツメーカーとしての地位を確立してきた。現在は、Tシャツにメッセージやグラフィックをのせる「Tシャツでつなぐプロジェクト」などを推進。世界に誇れる日本の"もの・こと"、文化の発信も行っている。

東京都・墨田区の久米繊維工業ファクトリーショップ

歴史ある久米繊維工業で取締役会長を務める久米氏だが、肩書きはこれだけに留まらない。墨田区観光協会の理事を担当しながら、明治大学や多摩大学で教鞭を執る。さらには、日本吟剣詩舞振興会の評議員も務めている。また現在の肩書きのみならず、自身の経歴も独特だ。慶應義塾大学で経済学を学んだ後、ゲーム会社に就職。株式ゲームの制作がきっかけで、日興證券(現:SMBC日興証券)に転職。その後、家業の久米繊維工業を継いだ。

このように、多種多様な業界で活躍し、様々な人々とコミュニケーションをとってきた久米氏にとって”人脈”とはどのようなものなのだろうか?

"会話の共通項がない相手のいる「居心地が悪い場所」に行け!

久米氏は、これまでの自身の経験を踏まえ、学生や若いビジネスパーソンに「進んで居心地が悪い場所に行け!」と説いているという。

居心地の悪いところとは、会話の共通項を持たない相手がいる場所だ。例えば、年齢が離れた人や異業種の人のような、異質な人間が集う場所が「居心地の悪い場所」といえる。どうしてそのような場所に行くべきなのだろうか。

久米氏はその理由を「若いうちに居心地の悪い場所を経験すると、異質な人間関係にも適応できるようになるから」と述べる。

知らないことを知ろうとする知的好奇心が人脈を作る

それでは、「居心地が悪い」と感じる状況をどのように変えればよいのだろうか? 久米氏は次のように語る。

会話の共通項を持たない相手がいる場所が「居心地が悪い場所」なら、逆に言えば「居心地が良い場所」は会話の共通項を持つ相手だ。つまり、会話の共通項を見つけることが、異質な人間関係への適応といえる。異質な人間関係との共通項を手繰り寄せるきっかけとなるのが、自分の知らないことを知ろうとする知的好奇心だ。

知的好奇心は本来、誰もが備えているもの。しかし、若い人は自身の持つ知的好奇心に気付いていない方が多いのだという。久米氏は、ここで1人の学生を例に挙げる。

「先日、ある会社の社長とLINEでつながりを持ったという学生から『聞きたくもないバイクの話ばかりされて困っている』と相談されました。でも、雑談をしてくれるというのは『愛された証拠』なんです。そこで雑談に興味を持って、いろんな話を聞いたり、体験させてもらうことは相手を知るチャンスであり、同時に自分を成長させるチャンスといえるでしょう。そういう関わりが人脈につながっていきます」。

「ビジネス以外の話を振られるという事は、相手が気を許してくれたということ」だと久米氏は述べる

飲みニケーションのような場が減り、若い方が異質な人間と関わる機会は少なくなった昨今。代わりにSNSが普及した。SNSは、相手の好きなことを簡単に知ることができるメディアだ。見方によっては、昔よりも異質な人間に踏み込みやすい環境になったともいえるだろう。久米氏はSNSを活用したコミュケーションのとり方の一例として、次のように語る。

「例えば美味しいラーメン屋さんがあったら、リアルでもSNSでも、その店長に『すごくうまかったです! 』とか『おいしいラーメンを紹介したいので写真撮ってもいいですか? 』と声を掛ければいいんです。そういう行動がビジネス以外の雑談に発展し、少しずつ人脈ができていく。こういう成功体験を重ねていくことで、戦略的な人脈の作り方がだんだん理解できてくると思うんです」。

SNSでのつながりの作り方も、基本的には昔の人間関係と変わらないということだろう。大切なのは、相手の好きなことをどれだけ知っているかだ。人脈は、相手を知ろうという知的好奇心から生まれる。若いビジネスパーソンの方は、ぜひこれからの人脈づくりの参考としてほしい。