「子どもを預けて働くなんて、子どもがかわいそう」。そんな言葉に傷ついてしまった母親は、少なくないかもしれない。子どもを保育園に預けることは、本当に"かわいそう"なのか。また、どうすれば自分の心の中の「本当は家にいて、もっと子どもと一緒にいるべき」という気持ちに折り合いを付けることができるのだろうか。「育休後コンサルタント」として、ママたちのサポートを行っている山口理栄さんにお聞きした。

専業主婦でもワーママでも子どもを預けられるのが理想--保育園の本当の意義(写真はイメージ)

山口さんは「子育て中の社員がやりがいを感じながら、生き生きと働ける職場作りのために」というコンセプトで、多くの働くママたちにエールを送っている頼もしい存在だ。100以上の企業や官公庁、自治体に対して、「育休後職場復帰セミナー」や「育児をしている部下を持つ管理職のためのイクボスセミナー」などを提供している。

山口さん自身も働くママであり、2児を育てながら大手企業で管理職まで務めた経験をもとに、「能力のある女性が出産後も活躍できるよう、企業と女性たち双方に働きかけたい」と話す。

愛情を持って接する人が周囲にいることが大切

最近では、0歳から子どもを保育園に預ける親も少なくない。そんな時、もう少し子どもと一緒にいてあげた方がいいのかな……と不安になることもあるかもしれない。これに対して山口さんは、「おじいちゃんでもおばあちゃんでも保育士さんでも、愛情を持って接してくれる大人が一緒にいることが大切です」と話す。

さらに、NHKが放映し話題となった『ママたちが非常事態!? 最新科学で迫るニッポンの子育て』の中で取り上げられた興味深いデータについて語ってくれた。

「子どもと触れ合うほど、男性の脳から『オキシトシン』が放出されることが分かったそうです。オキシトシンは、出産を機に女性の脳から大量に放出され、わが子への愛着を強める働きをします。そのオキシトシンが、わが子に触れるだけで男性にも放出され、愛の絆を強めていく効果があるそうです」。

「子どもを育てることで培われる能力があるということですよね。だから、子どもを育てるのは母親でなくてはならない、他の人ではダメ、と思い込まなくても良いのです」。

一緒にいる時間が限られているから楽しめる

働くママ・山口さんも、出産後は2度育休を取られたとのこと。その時は、どのような状況だったのだろうか。

「私は子どもとべったり一緒にいるのが好きなタイプではなかったけれど、育休の間は1年という期間が決まっていたから楽しめました。ずっと子どもと24時間一緒にいたら、子どもの要求に全部応えられないこともあるし、イライラしてしまうことがあるのは、自然なことだと思います」。

一方で、保育園の保育士さんはプロ。子どもについてしっかりと学んだ保育士さんと、子どもの安全が考えられた環境で過ごし、栄養士さんが考えた献立の食事が食べられる……。「子どもを預けることに不安を感じる必要はないと、私は思うんです」と山口さんは語る。

働く働かないに関わらず、みんなで子どもを育てるのが理想の社会

仕事に復帰してから、山口さんは会社から保育園にお迎えに行く時間が楽しみだったという。「今日は何をしていたのかな、どんな顔をしているかな……と考えながら迎えに行って、夜まで私も子どももご機嫌に一緒に過ごしていました。保育士さんと親とで、大変な育児を分担することで、子どもは愛情を持って接してくれる大人と1日中ずっと一緒にいられることになりますよね」。

現在山口さんは、子どもを育てながら働く親が、生活の中でバランスを取りながら働き続けることを支援しているが、日本における理想の子育て社会については、こう語ってくれた。

「親が働いていてもいなくても、全ての子どもが保育園に入れるようになったらいいと思います。北欧の場合、子どもが1歳になったら必ず保育園に入れる法律が定められているので、待機児童がいないのです。高福祉の国は税率が高いものの、保育園は無料だったり、無料でない場合でも安かったり、高齢になっても手厚い介護を受けることができます」。

「海外のシステムをそのまま日本に持ってくることはできませんが、子どもが親の状態に関わらず、一定の水準を満たした環境で育てられることを第1とする考え方は、参考にできるのではないかと思います」。

そんな考え方が日本に広まれば、保育園に子どもを預ける罪悪感は持たなくて済むのかもしれない。

山口理栄さん プロフィール

1984年4月、総合電機メーカー入社。ソフトウェア開発部署にて大型コンピュータのソフトウェアプロダクトの開発、設計、製品企画などに従事。2度育休を取り、部長職まで務める。2006年から2年間、社内の女性活躍推進プロジェクトのリーダーに就任。2010年より育休後コンサルタントとして法人向け各種研修サービスを提供するほか、個人向けには育休後カフェ、育休後面会相談などのサービスを提供している。著書に『改訂版 さあ、育休後からはじめよう~働くママへの応援歌』(労働調査会)、『子育て社員を活かすコミュニケーション【イクボスへのヒント集】』(労働調査会)がある。
ウェブサイト: 育休後コンサルタント.com
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