WOWOWの連続ドラマW『プラージュ~訳ありばかりのシェアハウス~』(毎週土曜22時~ 全5回)が面白い。
不運なことに犯罪に巻き込まれ、前科者になってしまった吉村貴生(星野源)が、行き場をなくして、訳ありばかりが住むシェアハウス<プラージュ>で暮らすことに。各々、人に言いづらい事情を抱えている住人たちと、戸惑いながら接しているうち、貴生は次第に変化していく。
星野源が演じた中で、もっともダメな人
一度躓いた人たちの、その後の人生を描きながら、人はやり直すことができるのか、人を赦すとは何か、というような、なかなか答えの出ない命題を突きつけられて、ちょっとズシッと、ヒリッとする。なにしろ、住人のあの人もこの人も、実は過去に人を殺していたということが、次々わかっていくのだ。原作は、『ストロベリーナイト』など、登場人物が残酷なまでに追い込まれる話に定評のあるベストセラー作家・誉田哲也の小説で、この話も、登場人物たちがなんとも苦い体験をさせられている。
8月26日放送の第3話では、愛する人のために人を殺してしまった男(渋川清彦)のエピソードだった。それと並行して貴生は、心身ともに傷をもった女性(仲里依紗)から「大切な人がいない」と言われ、「友達になろうか」と申し出る。しかしそのあと「それってただの友達だよね?」とわざわざ聞くという、シリアスな話なのに、そこでそんなこと確認する? 下心若干ありなの? とツッコミたくなる貴生の未熟っぷりを、星野源が好演している。
星野がこれまで演じた役の中でも、貴生は最もダメな人らしい。確かに第1話の貴生は、危機管理能力がなく、犯罪に巻き込まれてしまい、刑務所から出てきたらすぐに部屋で、エッチなDVDを観始めるというトホホっぷりだった。
星野源の出世作である、2016年10月期の連続ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS)の、平匡さんのイメージで『プラージュ』を観ると、はぐらかされる。契約結婚した男女が次第に本当に思い合っていくという『逃げ恥』では、平匡さんは長年独身という設定だけあって、なんだかんだ問題もありつつも、こんな人と結婚したいと思うスペックの持ち主であったが、貴生は前科があるないにかかわらず、そもそも結婚したいと思わせるスペックが不足気味。かたや、平匡さんと「さん」づけしたくなり、かたや「貴生」と呼び捨てでいい感じがするところからして、距離がある。
だがこの差は、俳優としての星野源を考えたときには、好ましい。演技のレンジが広いということだから。
チベスナを心に一匹飼いたいと願う
そもそも星野源は、音楽活動と俳優活動を並行してやっている上、執筆活動も行う多才な人物だ。
『プラージュ』の貴生という役は、星野源がやっているからこそ、重暗くなり過ぎない。いろいろ事情があるとはいえ、殺人を犯してしまった住人たちの重暗さに、星野源が引きずられ過ぎないので、視聴者も、訳ありな人たちの事情を引いた視点で観ることができる。『月刊スカパー!』8月号で取材した時、星野は「最終的には、愛せる人物になりたいと思っていたし。やっぱり愛されない主人公を5回連続で観るのはつらいですよね(笑)」と言っていて、ちゃんとバランスを見計らっているようだった。貴生の着ている服がわりとキレイ系で、それもホッとする。
星野源は、物語の中心を担う役を任されていても、情熱に任せて周囲を世界観に引きずりこんでいくタイプではなく、一歩、一歩、丁寧に、準備はいいですか? はい、出発しますよ。酔ってないですか? みたいに、いちいち確認してくれる添乗員的な安心感でもって、視聴者を物語に誘ってくれるかのようだ。それでいて、全面的に善意の人ではなくて、ちゃんと毒も持ち合わせている。『LIFE!~人生に捧げるコント~』(NHK)で演じるオモえもんという、親友に一生懸命になり過ぎて重く感じさせてしまうキャラのように、時おりふと、悪い顔をしたりする。ラジオ番組でお馴染みだが、エロい話もお手のものだ。はい、男ですから、エロいことも考えてますよ、とドリームの世界に入り込み過ぎないように。
星野源を何かに例えるとしたら、チベットスナギツネ。どこか、乾いた心で世の中を俯瞰して観ているあの瞳が、世の中も物語も、きれいごとばかりじゃないと、立ち止まらせてくれるようで、我々はチベスナを心に一匹飼いたいと願う。それこそが、星野源ではないか。
でも、もっと以前の星野源は、かなりキレッキレだったこともある。園子温監督の『地獄でなぜ悪い』(13年)の激しさといったらない。その頃の一作・舞台『TEXAS』(12年)が9月2日15時より、WOWOWで放送される。無様なほどキレッキレなところも、また魅力的だ。
■著者プロフィール
木俣冬
文筆業。『みんなの朝ドラ』(講談社現代新書)が発売中。ドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』、構成した書籍に『庵野秀明のフタリシバイ』『堤っ』『蜷川幸雄の稽古場から』などがある。最近のテーマは朝ドラと京都のエンタメ。