「テレビを見せている間は赤ちゃんの機嫌がいい」「家事をしている間に少しだけ……」といった理由で、赤ちゃんについテレビを見せてしまうお母さん、けっこう多いのではないだろうか。子育ての助けになる一方で、「目が悪くなるのでは?」「脳や心の発達への影響は?」など、気になることもあるだろう。
そこで、子どもとメディアの関係を研究する坂元章先生に、赤ちゃんとテレビとの上手な付き合い方について聞いてみた。
1人きりで長時間の視聴はNG
乳児期(0~2歳)の発達において重要なのは、五感を十分に使って周囲を観察し、両親や祖父母など身近な人とのコミュニケーションを通じて、他者や世界に対する愛情と信頼を築くこと。この時期の経験は、その後の心や脳の発達に影響すると言われている。
「特に自分が働きかけた時、相手に何らかの変化や反応が見られることが大切です」と坂元先生。その点で考えると、テレビは基本的に子どもが受け身のままで完結してしまい、応答性があったとしても、限れらたものになってしまうという。
しかし、テレビが100%ダメだというわけではない。坂元先生によれば、"家事ができない"など、ママが大きなストレスを抱えるのであれば、テレビを排除するのも難しい面があるとのこと。乳児の心と脳の発達を阻害するほど、乳児と保護者がやりとりする時間を奪ってしまうのが問題なのであり、長い間1人きりで見せないことが大切なのだそうだ。
親が横に座って一緒に見ながら話しかけたり、楽しく歌ったりするのは、むしろコミュニケーションツールとして役立っているので問題は少ない。坂元先生は、「テレビを見せるとしても、それ以外は一緒に手遊びをしたり、絵本の読み聞かせをしたりするなど、親子の触れ合い時間をしっかりとってあげてください」とアドバイスしてくれた。
赤ちゃんのテレビ視聴はメリットが少ない
幼児期(3~6歳)になれば、人のしていることを見て、真似て、覚える「観察学習」ができるようになるが、赤ちゃんはそもそも視力が未発達で、テレビ番組の映像はあまり明瞭には見えていないようである。「一般に、教育的番組であれば、言葉遊びのコンテンツを見てひらがなを覚えるといったメリットはありますが、赤ちゃんは内容自体が十分に理解できないので、メリットが少なくなる。これはテレビに限らず、スマホやタブレットで見せる動画でも同じことが言えます」(坂元先生)。
また、テレビなどの過剰利用による視機能の低下、手作業や運動の不足などの懸念もある。
テレビはどのくらい見せてよい?
では、適切な利用時間はどのくらいなのだろうか。坂元先生によると、「はっきりとは言えませんが、学会の発表や社会状況から考えると、生後18カ月から2歳の乳児を1人で視聴させる場合、幼児向けの教育的な番組を1日でせいぜい30分というところではないでしょうか」とのこと。「それよりも小さな乳児の場合は、もっと制約した方がよい」とも語った。
子どもがテレビを見る時には、できれば親も一緒に見て、テレビの内容を材料にコミュニケーションをとったり、実世界につなげたりするとよいそう。例えば、人形遊びのシーンがあれば、その後、親と子どもで同じような人形遊びをするという具合だ。
最近はテレビと同様に、インターネットで動画を見ることが一般的になっている。テレビは番組が終わることで区切りをつけやすいが、インターネット動画はコンテンツの量が膨大で、さらに「関連動画」という形で利用時間がどんどん長くなってしまう可能性もある。見せるのであれば、パソコンやタブレットよりは、テレビの方がベターと言えるだろう。
坂元章教授 プロフィール
お茶の水大学基幹研究院人間科学系教授。専門は社会心理学、情報教育。NPO法人コンピュータエンターテインメントレーティング機構(CERO)理事、「子どもたちのインターネット利用について考える研究会」座長を務める。著書に『テレビゲームと子どもの心』(メタモル出版)、『メディアとパーソナリティ』(ナカニシヤ出版)などがある。