「読者ファースト」を合言葉として、マイナビニュースのグルメ担当に、サソリなどの「昆虫食フェア」を、カラスなどの「新春鳥祭り」を、体当たりでの取材を提案したのは、何を隠そう筆者である。一皮むけた担当を誇りに思う。なのだが、その味わいとともに、「スズメは京都の伏見稲荷大社の名物ですよ」という言葉も、しっかり覚えていたようだ。……やるしかない!

スズメを目指して伏見稲荷大社へ

スズメとウズラは逃げも隠れもしない!

伏見稲荷へは、JR奈良線「稲荷駅」からすぐ、または、京阪本線「伏見稲荷駅」から徒歩5分。全国に3万社あるとされている"お稲荷さん"の総本宮であり、参道にはいなり寿司を提供する食事処のほか、キツネの顔をしたいなり煎餅やキツネのお面などを取りそろえているお店も軒を連ねている。ちなみに、稲荷駅から本殿に通じる道が表参道なのだが、この通りには露店はない。露店は伏見稲荷駅から続く神幸道(裏参道)に集中している。

京阪本線「伏見稲荷駅」からだと伏見稲荷大社へは徒歩5分

地図からも分かる通り、伏見稲荷大社の境内は思いのほか広い。境内は約26万坪(約87万平方メートル)あり、甲子園球場の約22倍の面積とのこと

この日、京都は35度。茶屋の吸引力が半端ない

キツネのお面をつけて参道を歩くのもなんだか楽しそう

裏参道を歩いていると、目に飛び込んでくるのは、煎餅にわらび餅、甘酒、冷やしあめ、抹茶にお菓子。つい、あっちへふらり、こっちへふらりとしてしまう。そんな中で行き着いたのは、裏参道で稲荷大社に最も近い場所に食事処を構えた大正12(1923)年創業の「お食事処 稲福」。伏見稲荷大社の参道でスズメを提供している店舗は3店舗あるが、稲福は店先に焼き上げるスタイルで、店頭にも「国産すずめ・うずら」と明記しているので見逃しようがない。

稲福は大正12(1923)年に創業し、その当時より、スズメの焼き鳥を販売している

ウズラは「大」(880円)と「小」(700円)の2種類のほか、店内食では骨を取り除いて食べやすくした「骨抜(つぼぬ)き」(960円)を取りそろえている。大は身が大きい分、骨もしっかりしているが、小は骨も含めてまるごと食べることができる。大と小はテイクアウトにも対応しているものの、テイクアウトの場合は、食べやすさという意味で小をオススメしたい。店頭で焼いている様子や匂いは、ふだん私たちが慣れ親しんだ鶏肉そのものである。

次から次へと焼かれていくウズラたち

焼いたウズラはタレ壷にくぐらせ、また焼く。鍋蓋で蒸し焼きにするほか、しっかり中まで火が通るように隠し包丁も入れられている。仕上げに七味ではなく山椒をまぶすのが京都風なんだとか。

タレを付けてはまた焼いて

仕上げに山椒をはらり

一方のスズメ(600円)は数に限りがある関係で、店内食のみで提供している。そして、ウズラに比べるとスマートなフォルムをしており、相対的に頭が大きく見えてしまう。鶏肉とは別の焼き鳥であることを視覚的にも認識せざるを得ない。

ウズラに比べてスズメはシュッとしている。その分、頭の大きさが気になってしまう……

スズメはテイクアウトに対応しておらず、店内食のみでの提供となる

神さまへのお供え物として

実際に食べる前に、なぜこの地でスズメが食べられているのか、稲福取締役社長で3代目店主の本城忠宏さんに話をうかがった。

稲福取締役社長で3代目店主の本城忠宏さん。ウズラよりもスズメが好きだとか

松永: 「スズメの焼き鳥は写真では見たことがあったんですが、やっぱり実物を見ると、なんというか……インパクトが強いですよね。参道では現在、3店舗でのみ提供しているようですが、特にこの伏見区で日常的に食べられているものというわけではないんでしょうか? 」


本城さん: 「いえいえ。こうしてお店で提供する程度で、日常的に食べるというものではないです。まぁ、昔は貴重なタンパク源として食べられていたかもしれませんが。現在は数に限りがあるので、今日はもう売り切れです」


松永: 「多い時には年に何羽くらい注文があるんでしょうか? 」


本城さん: 「多い時はワンシーズンで3万羽くらいでしょうか。ただ、中国産のスズメが輸出禁止になったので、今取り扱っているのは国産だけで、提供できる数にも限りがあります。スズメの狩猟は11月15日~2月15日の3カ月限定なんですよ。年に何羽というのは決まっていませんが、香川や京都、長野、新潟、などにいつもお願いしている猟師がいるので、必要な時にその都度、取り寄せています。もちろん、天然のスズメです」


松永: 「ではなぜ、この地域でスズメを食べるようになったんでしょうか? 」


本城さん: 「諸説ありますが、伏見稲荷は商売繁盛の神さまとして知られていますが、元々は五穀豊穣の神さまとして厚い信仰を集めており、その五穀を食べるスズメを退治するとか見せしめにするとか、そうした説が広く伝わっています」


松永: 「そうなんですね。でもちょっと、スズメに対する罪悪感が……」


本城さん: 「……という話をすると、テレビ的にも分かりやすくていいんですが(笑)、私はもっと別の理由があるんじゃないかなって思っているんですよ。お供え物という意味です。今でも、海の方だったらお魚を、農家の方だったらお米とかお酒とかを神さまに供えるじゃないですか。それと同じで、猟師なら野鳥や水鳥などを供えます。お供えの後にはそのお下がりをみんなで分けて食べますので、それが始まりじゃないかなって思うんですよね」


松永: 「お供え物のお下がりをいただく。その一連の流れで考えると、伏見稲荷というこの環境もあいまって、尊いものに感じられますね」


本城さん: 「でも、単純にスズメはおいしいですよ。私はウズラよりもスズメの方が好きですね。パリッとして香ばしくておいしい」


松永: 「味で特にこだわっているところはありますか? 」


本城さん: 「タレはウズラの骨でダシをとり、それに醤油やみりん、酒、砂糖などをあわせています。野鳥なので独特の臭みがありますが、その匂い消しという意味でも、七味ではなく山椒がいいんでしょうね。おいしいんですよ」


スズメは頭部派と胴体派で分かれる!?

本城さんから満面の笑みで、3回も「おいしい」という言葉を聞いた。そして、今では貴重な国産スズメを、また、お供え物のお下がりとしていただくという尊い起源も教えてもらった。これで、おいしく食べる環境は整った。

命をいただくことへの感謝をしながら……いただきます!

迷わず頭から向かったところ、脳みそ部分のトロッとした食感と風味は鶏レバーを思わす。ただ個人的には、胴体のパリパリ感がスズメの醍醐味なのではと思った。濃いめのタレと山椒のもつ香りとで、長く余韻も楽しめる。

改めて見てみると凛々しい横顔だ

あわせていただいたウズラ(小)も頭から。スズメ同様、頭部と胴体で全く異なる食感が楽しめるのだが、こちらの身は鶏肉の味わいに近い。骨も丸ごと食べられるもののかみにくい骨もあるので、気をつけて食べるようにしよう。ちなみに、ウズラは玉子のための養鶏場もあるため、特にシーズンを問わない。稲福では愛知や埼玉などから仕入れたウズラを用いているという。

ウズラ(小/700円)をテイクアウト。骨も含めて丸ごといただく

スズメはシーズンものではあるが、数を限定しながら通年で提供している。ただし、シーズン外は冷凍保存したスズメになる。12月頃は最も脂ののったスズメが出回るので、この時期を狙ってみるのもいいだろう。

●information
お食事処 稲福
住所: 京都府京都市伏見区深草開土町2-4
アクセス: JR奈良線「稲荷駅」から徒歩3分、または、京阪本線「伏見稲荷駅」から徒歩8分
営業時間: 9:00~17:00(LO16:30)
定休日: 第2,3,4火曜日

※価格は税込