4月、新社会人の皆さんは、めまぐるしい毎日を過ごしていることだろう。社会人生活は、楽しいこともあれば、つらいことや悔しいこともある。ミスを重ねたり、厳しく注意されたりすると「この仕事に向いていないのでは……」と思い悩むかもしれない。
では、ADHDやその他発達障害の人の場合は、仕事上でどんな葛藤を抱えやすいのだろうか。適職を見つけるポイントと合わせて、精神科の高木希奈医師にお聞きした。
自分の得意分野を生かす
ADHDは神経発達障害群の一つで、「不注意・多動性・衝動性」の3つの特徴がみられます。子供の場合は「席にじっとしてられない」など学校生活での行動が指摘されますが、成人の場合は「上司に指示されたことをすぐに忘れてしまう」といったビジネスシーンで戸惑うことが多いと思われます。
ADHDやその他発達障害の方が適職を見つけるためには、まずは「自分の特性を知ること」が大切です。ADHDや発達障害と診断するためには、心理検査が必要になります。その心理検査では、大体の自分の得意分野と不得意分野を知ることができますので、そこで自分の特性を知り、得意分野を生かせるような職業に就きましょう。
ADHDの場合
ADHDの方は、細部を見過ごすことや、作業が不正確だったり雑だったりすることがあります。そのため、自分の判断や作業だけですべてが完結するような仕事は適しておらず、ダブルチェックやトリプルチェックができるような体制が整った仕事が望ましいです。
ここからは、ADHDの方の職場で起こりがちなシチュエーション別に、改善策を見ていきましょう。
【例1】会議中や面談中に、相手の質問を待っていられず途中で話し始めてしまう、他の人の言葉の続きを言ってしまうなど、自分の順番が待てない。
⇒思いついたそばから発言するのではなく、まずはメモにとるか、もう一度自分で内容が適切かを考えてみること。発言するときは、手を挙げて「すみません、一言よろしいでしょうか」などと発言の了承を得てからにしましょう。
【例2】注意散漫で集中力がないので、仕事がはかどらない。
⇒自分の机に仕切りを付ける、作業スペースを区切るなどして、作業だけに専念し、注意や気が散らないような工夫をしてみましょう。
【例3】よく忘れ物や失くし物をする。大事な物が管理できない。
⇒物をいろいろなところにしまわず、"大事な物はここ"と1カ所だけに決めるのがおすすめです。また、持ち物は必要最小限にし、必ず持っていかなければならない物は、予め目のつくところ(玄関や机の上など)にまとめておきましょう。持ち物表を作成し、自分で確認する習慣をつけるのも良いですね。
【例4】仕事や約束の日時、期日や期限・締切を守れない。
⇒スケジュール表を作成して目のつくところに貼り、周囲の人と共有するようにしましょう。アラームをセットしたり、リマインダーで通知が届くようにしたりすることもおすすめです。また、仕事の内容に余裕を持たせることを心がけ、自分で判断できない場合は、上司や周囲に相談をしてから引き受けるかどうかの返答をすると良いでしょう。
【例5】いろんなことに手を付けては中途半端になってしまう。物事の優先順位をつけられない。
⇒作業の同時進行は避け、1つの物事が片付いてから別の作業に移るようにしましょう。また、優先順位を書き出して順番を付け、「急ぎ」と言われない限りは言われた順番を守って行うようにしてみてください。
ADHD以外の発達障害の場合
その他発達障害の方は、自分の興味のあることや好きなこと、得意分野や特性を生かし、それを伸ばせる職種に就くことがポイントです。また、あまり周囲に干渉されることなく、マイペースでコツコツできる仕事が良いでしょう。
例を挙げるとすれば、手先が器用で手作業が得意な人であれば、細かい作業や物作りなどが合っています。こだわりを持ち、一つの作業を繰り返し行うこと(ルーチンワーク)が得意な人であれば、計算、交通調査、機械作業などが適しているでしょう。ある特定の分野に非常に高い能力を示す人の場合は、生物・物理・化学や外国語が得意であれば研究者や学者、翻訳者など、IT系が得意であればプログラマーやSEなどがおすすめです。
一方、臨機応変に対応しなければならないことが多い仕事や、対人スキルや周囲との協調性が求められ、同時に複数のことをこなさなければならない仕事は、難易度が高いでしょう。例でいうと、接客業、営業、電話応対、飲食業、旅行業などは向かないと思われます。
最後に、ADHDの方もその他発達障害の方も、苦手なことを克服しようと頑張るよりも、得意なことを伸ばせるようにした方が、考え方も生き方も楽になると思います。初めから適職に就ければ一番良いですが、途中で合わないことに気づいた場合は、我慢して自分を追い込むのではなく、医師や心理士などに相談の上、自分に合った職業を探してみても良いでしょう。
※写真と本文は関係ありません
取材協力: 高木希奈(タカギ・キナ)
精神保健指定医、日本精神神経学会認定専門医、日本精神神経学会認定指導医、日本医師会認定産業医。
長野県出身。聖マリアンナ医科大学卒業。現在は、精神科単科の病院で精神科救急を中心に急性期治療にあたっている。また、産業医として企業にも勤務経験あり。
著書に『間取りの恋愛心理学』(三五館)、『あなたの周りの身近な狂気』(セブン&アイ出版)、『精神科女医が本気で考えた 心と体を満足させるセックス』(徳間書店)、電子書籍『女医が教える飽きないエッチ』(App Store、Kindle)など。趣味は、海外旅行とスキューバダイビング。オフィシャルブログはこちら。