フィギュアスケート女子のバンクーバー五輪銀メダリスト・浅田真央(26)が12日、都内ホテルで現役引退会見を開いた。前編・中編・後編の3回に分けて、会見での発言を紹介する。
引退決断までの日々、日本のフィギュアスケート界への思い
――最終的に2月に引退を決断して、4月に発表。この2カ月くらいはどういう思いだったのでしょうか。
いろいろと自分の気持ちの準備だったりもあり、今日に至りました。
――引退を決意するまでに「平昌五輪という目標を掲げたのにここでやめていいのか悩んだ」とおっしゃっていましたが、全日本選手権が終わってからの3カ月間、どなたが一番決断を後押ししてくれたのか。
家族だったり、お友達だったり、知っている方に相談はしました。みなさんそれぞれいろいろなアドバイスはくれたんですけど、最終的に決めたのは自分自身。その中でも旅行に行ったり、いろいろ今まで行けなかったところに行ったりして、考えながら日々を過ごしてきて、決断をしました。
――21年間という競技人生の中で、一番大切にしてきた言葉はありますか?
この決断をしてから、本当にたくさんの方が温かい言葉を送ってくださったので、私自身本当に晴れやかな気持ちで今この場にいます。なので、やはり「感謝」という気持ちはこれからも忘れずに進んでいきたいなと思います。
――こうやってスケートが日本でブームになって、世界でも強い国になったことに、自分はどう貢献できた、力になったと思っていますか?
私が小さい頃は伊藤みどり選手をはじめ、本当にたくさんのトップのすばらしいスケーターがいました。そのスケーターの方々を見て、私もこうなりたいと思って、ずっとそれを目指してやってきました。ジュニアやシニアに上がってからは、スケーターがみんなそれぞれ強くて、魅力のある選手ばかりで、それぞれがいい刺激をし合いながら、切磋琢磨して頑張ってきました。そして、それを応援してくださるメディアの方やファンの方がいたから、ここまでフィギュアスケートもたくさん注目されるスポーツになったんじゃないかなと思っています。なので、これからのスケーターの子たちには、みんなでそれぞれ高めあって、刺激し合いながら、頑張っていってほしいなと思っています。
世界を感動させたソチ五輪のフリー「やるしかない」
――ソチ五輪のショートプログラムから数時間の間に、どのようなきっかけで立ち直って、あの世界中が感動したフリーの演技につなげることができたのか、きっかけを改めて聞かせてください。
ショートが終わってからは「あぁ、日本に帰れない」と思って、すごくつらい思いもしたんですけど、フリーの当日の朝もまだ気持ちが切り替わっていなくて、「このままで大丈夫なのかな」という形で公式練習を終えました。でも、試合が近づくにつれて、メークをして、アップをして、リンクのドアを出た瞬間にすごい会場で、「これはやるしかないな」という思いが出てきて、ようやくそのときに「やるしかない」と思いました。
――競技が終わった瞬間はどうでしたか?
最後のポーズは上を向いていたんですけど、「あぁ、終わった」って思いましたね。それと同時に「あぁ、良かった」という思いがこみ上げてきて、ちょっと涙してしまったんですけど、バンクーバーのときも悔し涙を流していたので、泣いてちゃダメだなと思って、頑張って笑顔にしました(笑)
新たな世界へ進む今の心境、競技人生で大事にしてきた信念
――これから違う世界に進むことで、今考えていることは?
また新たな一歩だと思ってます。でも、不安とか何もなくて、ただただ前にある道を進んでいくだけだと思っているので、これからも新たな経験をして、元気に前を見て進んでいきたいなと思っています。
――(ロシアの)プルシェンコ選手も先日引退を発表しましたが、長く同じ競技の世界で戦ってきた仲間として思うことはありますか。
私よりも長い選手生活で、本当にたくさんの記録を残してきて、本当にたくさんの人を魅了してきた選手だと思います。心から「お疲れさまでした」と言いたいです。
――浅田さんの前を向く姿というのは本当に印象的だったのですが、大事にしてきた信念はどういうことですか?
ちっちゃい頃から変わらないんですけど、一日一日もそうですけど、何かこれをしたいという目標を持ってやってきました。なので、目標を達成するという強い気持ちを持ってずっとやってきたつもりです。
――選手生活を終えて、一番やりたいことは?
1月、2月、3月と時間があったので、旅行に行ったり、おいしいものを食べたりすることができました。
キム・ヨナ選手への思い、引退決めた全日本選手権での心境
――(韓国の)キム・ヨナ選手と競い合ってきました。彼女への思いは、あらためていかがでしょうか。
私たちは15、16歳頃から一緒にジュニアの試合やシニアの試合に出てきました。本当にお互いにいい刺激を与えながら、もらいながら、ずっとスケート界を盛り上げてきたんじゃないかなとは思っています。
――最後の全日本選手権はどんな気持ちで臨み、何が「もういいかな」と思ったのでしょうか。
試合に向かう気持ちというのは、一つ一つの試合変わらないんですけど、常にノーミスをする、完璧な演技をする、自信を持って滑るというのを考えていました。演技が終わった時に、やはり完璧ではなかったですし、自分の現役生活最高の演技ではなかったので、少し悔しい気持ちもあったんじゃないかなと思います。その後、キスアンドクライに座って、得点と順位が出た時に「あっ、もういいのかもしれない」という風に思いました。
――「もういいのかもしれない」というのはどういうことですか?
全日本選手権は12歳から出場しているんですけど、一番残念な結果で終わってしまって、その結果も一つ大きな決断に至るにあたって大きな出来事だったんじゃないかなとは思っています。
平昌五輪について、オリンピックという舞台について
――もしも一度だけ過去に戻れるとしたら、いつの自分にどんな言葉をかけてあげたいですか?
26年間ですもんね。あぁ難しい(笑)。でも戻ることはないと思うので、パッと答えは出てこないですね。
――今、平昌五輪についてどういう風に思われますか?
あと1年で平昌五輪ということで、たぶん選手の方々はみんなそれぞれいろんな思いを持って日々生活していると思います。なので私は、エールを送りたいです。
――真央さんにとってオリンピックの舞台は、どういう場所だったでしょうか。
うーん、やはり4年に一度ですし、選手である以上はそれを目指して私も小さい頃からやってきたので、そこに出られた、そしてメダルを取れたということは本当に良かったなと思いますし、オリンピックは本当に素晴らしい舞台だなと思います。
もし生まれ変わるとしたら「スケートの道は行かないと思う」
――もし生まれ変わるとしたら、もう一度フィギュアスケーターになりたいですか? それとも別のものになりたいですか?
今こうして26歳までスケートをやって、すべてやり切って、もう何も悔いがないので、もしもう一度人生があるなら、スケートの道は行かないと思います(笑)
――例えば何になりたいですか?
本当にいろいろありますね。なんだろう。食べることが大好きなのでケーキ屋さんとか、カフェとか、レストランだったり、そういうのをやっていたのかなとも思ったりもします。
浅田真央のポリシー「自分が言ったことはやり遂げる」
――「自分が言ったことは必ずやり遂げる」というポリシーは、どなたから授かった教えなのでしょうか。
やはり母かなと思います。あとは、こういう性格なので、すごく頑固っていうんですかね。普段はそんなことないんですけど、自分が決めたことに関しては一応、頑固なつもりです(笑)
――そのポリシーを貫いた最初の体験はいつだったか覚えてらっしゃいますか?
しっかり覚えているのは、小さい頃に毎年、野辺山合宿という新人発掘合宿が長野県であるんですけど、そこで絶対トリプルアクセルを跳ぶと決めて合宿に行って、初めて降りた(成功した)というのが一番記憶にあります。
――そこが現在の浅田真央という素晴らしいアスリートの原点と考えてよろしいでしょうか。
自分で言うのもあれですけど(笑)、その時に目標を達成するとこんなにうれしいんだなって、また頑張りたいなと思えた時でした。
結婚の予定は「ない」、プロスケーターとしての思い
――ご結婚のご予定はありますか?
ないです(笑)。でも、お相手がいれば、その方と一緒に帰れたんですけどね(笑)
――例えば(福原)愛ちゃんみたいに台湾の方と結婚なさるのは可能でしょうか? あと、ずっと寒いリンクにいらっしゃったので、暖かい所、例えば台湾でのんびりしたりとかすることはあるのでしょうか。(台湾から来た記者からの質問)
私、愛ちゃんとお友達なので、もし台湾の方でいい方がいれば、ご紹介してもらいたいなと思います(笑)。本当に一つ行ってみたいところが台湾なので、愛ちゃんに案内してもらいます。
――今後、プロスケーターとして活躍されているご予定かと思いますが、どういうスケートを見せていきたいと思いますか?
一番近くにあるのは「ザ・アイス」なので、まだプログラムも作ってないんですけど、エキシビションナンバーを作ります。そのエキシビションナンバーで、今までのスケート人生のすべてを注ぎ込めるように、そういうプログラムを作っていきたいと思います。
涙をこらえながらの最後のあいさつ
皆さん今日は本当にどうもありがとうございました。発表してからは本当にこの2日間、温かい言葉をいただいて、私も本当に晴れやかな気持ちで引退を迎えることができました。えー、(涙がこみ上げる) えー、スケート人生で経験したことを忘れずに、これから新たな目標を見つけて笑顔で… (涙を見せまいと後ろを向き、振り返る) 前に進んでいきたいと思っています。(再び後ろを向き、振り返る) 皆さん応援どうもありがとうございました。