セブン銀行とじぶん銀行は3月27日より、カードレスでATMから出入金が可能な「スマホATM」のサービスを全国で展開する。サービス開始に先立ち、3月23日に東京・大手町で記者発表・お披露目会が開催された。

「スマホATM」のサービスを3月27日より全国展開

カードレスATM取引を実現

スマホATMとは、キャッシュカードを使わずスマートフォンのみでATM入出金ができるサービスだ。

サービス利用のステップ

じぶん銀行ユーザーはアプリを起動し、「スマホATM」のメニューを選ぶ。セブン銀行ATMの画面に表示されるQRコードをアプリから読み取り、企業番号(じぶん銀行は「8333」)と暗証番号をATMに入力すると、現金を受け取ることができる。手数料はじぶん銀行のランクにより異なるが、キャッシュカードありの場合と同じ設定で、スマホATM利用料の上乗せはない。

スマートフォンでQRコードを撮影して

企業番号と暗証番号をATMに入力すると

現金が出てくる

セブン銀行代表取締役社長 二子石謙輔氏とじぶん銀行代表取締役社長 鶴我明憲氏は、会見でサービス開始までの経緯や意義について次のように語った。

「スマートフォンの普及は急激に進んでおり、今やなくてはならない生活必需品となった。また、スマートフォンを一つのプラットフォームにした金融サービスが増加する流れの中で、いよいよATMもスマホの時代に入った。スマホATMは、ATM提供側であるセブン銀行の思いと、サービス提供側のじぶん銀行の思いがマッチングし、結実したサービスだ。現金の出入り口としてのATMと、スマートフォンをプラットフォームとしたサービスをつなげることで、新しい金融サービスが展開できるのではないか」(セブン銀行代表取締役社長 二子石謙輔氏)

「じぶん銀行は設立以来、『手のひらの上の銀行』をテーマにとがったサービスに注力してきた。現時点では、じぶん銀行のみがすべての取引をスマホで完結させられる。スマホATMは、カードレスの流れを実現するもの。生活インフラとして完璧なネットワークがあるセブン銀行とモバイルをコアにしたじぶん銀行で、今後もフィンテック、人工知能、IOTなどいろんなことにチャレンジしていきたい」(じぶん銀行代表取締役社長 鶴我明憲氏)

写真左:セブン銀行代表取締役社長 二子石謙輔氏/写真右:じぶん銀行代表取締役社長 鶴我明憲氏

あえてQRコードでの認証を採用した理由

スマホATMサービスの特徴は、「誰でも簡単に使える」という点にある。例えば新しいスマートフォンアプリが登場したときに、iOSにのみ対応(若しくは逆)という場合があるが、スマホATMはiOS・Androidどちらにも対応している。また、現行の「じぶん銀行アプリ」の新機能としてアップデートされるため、新たにスマホATM専用のアプリをダウンロードする必要もない。

操作の手順

ATMに表示されたORコードをスマートフォンで読み取る形式も、ユーザビリティを意識したものだ。ブルートゥースによる通信など様々な選択肢がある中で、あえてカメラという"レガシーな機能"(じぶん銀行談)を採用したのは、カメラが老若男女誰もが日常的に使用している機能だからだ。

事者関係・システム関係図

くわえて、QRコードをスマートフォンで読み取るシステムは、サービス提供側にとってもメリットが大きい。非接触インターフェイスや指紋などの生体認証、QRコードをスマートフォンで生成しATMに読み取りさせる方式を導入するには、ATMに認証装置を設置する等、ハード面の改修が必要となる。全国に2万3,000台以上あるセブン銀行ATMをすべて改修するには、コストも時間もかかる。一方、スマホATMのシステムの場合、ソフトの改修のみでハードの改修は不要。既存のインフラを最大限に活用できるという。

他実現方法との比較

複数のセキュリティ網で安心

お披露目会では、ペイメントジャーナリストの本田元氏、女優でプログラマーの池澤あやか氏と、スマホATM作成に携わったじぶん銀行IT戦略部長の中村力氏、セブン銀行業務推進部次長の池田憲彦氏の4名がトークセッションを実施。スマホATMの感想や開発でこだわった点などを披露した。

「スマホATMはUIがすばらしい。シンプルであり、マニュアルいらずで利便性が高い。簡単にお金にアクセスできる環境を整えたというのはすごいことだ。キャッシュカードは約50年前に登場したが、なくなることなくずっと用いられてきた。セブン銀行ATMに通帳出し入れ口がないことからもわかるように、セブン銀行が通帳を廃止し、今度はじぶん銀行がカードをなくす。そう考えるとスマホATMは50年ぶりの快挙で、歴史的な転換点となるだろう」(ペイメントジャーナリスト 本田元氏)

「銀行にもネットバンクサービスなどがあるが、PCファーストでスマホだと使いづらいUIで余計な手間もかかり、デジタルネイティブ世代としては疑問を感じていた。スマホATMは先進的なデザイン、かつ、『カメラで撮るんだな』ということがわかりきったスマホファーストで考えられたUIだと思う。また、キャッシュカードはアップデートや更新が大変だが、スマホATMはソフトやアプリをアップデートすればいい。すごいスピードでどんどん進化する可能性があり、未来に期待が持てそうだ」(女優/プログラマー 池澤あやか氏)

昨日財布を無くしたと語った池澤氏(写真右から2番目)。「スマホATMでは財布をなくしても携帯一つで対応でき、現金も引き出せる。だいぶ盗難対応が楽になりそう。ただ、もうすこし早くサービス開始してほしかった」と語り、会場の笑いをさそった

「お客さんが『私は使える』『私は使えない』とならないよう、iPhone・Androidどちらでも使える点がポイントだ。また、カメラなどレガシーな機能をなるべく使うようにした。スマホ内蔵のGPSを活用し、アプリを立ち上げると近くのセブンATMが表示される機能にもこだわった。セキュリティについても、基本的にスマホ自体にセキュリティがかかっており、アプリにもロックをかけ、それを開くにも指紋認証が必要になる。紛失したとしても遠隔で消去できるのもメリット。なくなったらデータを消去し、新しいスマホで同口座の設定をすれば、またスマホATMが利用できる」(じぶん銀行IT戦略部長 中村力氏)

「スマホATMでは『安心して、便利に使える』という点をすごく大事にしている。カードレスのATMを検討するときに、ブルートゥースなどの選択肢もあったが、老若男女誰でも使える『カメラ』を使った機能にすることが決まった。ハードの部分は変わっていないのでATM改修も必要なく、全国一斉にサービス提供ができる。セキュリティについても、スマホ本体のセキュリティ、ネットバンキングのセキュリティ、口座の暗証番号を組み合わせたセキュリティ網をしいており、QRコードでスマホを使っている人とATM操作者が同じということも確認できるようにした」(セブン銀行業務推進部次長 池田憲彦氏)

まとめ

ユーザーの使いやすさをとことん考えたスマホATMには、「財布がカード1枚分軽くなる」(じぶん銀行代表取締役社長 鶴我明憲氏)という物理的なメリットもある。おサイフケータイやApple Payでクレジットカードや電子マネー(カード)を持ち歩くことが減ったという人は多いが、キャッシュカードがなくなることで、更に財布は薄くなりそうだ。

セブン銀行によると、今後はLINE Payモビットなどじぶん銀行以外のネット銀行や金融サービスにもプラットフォームを提供する予定とのこと。フィンテックの進化とともに財布はどんどん薄くなり、スマートフォン1つですべてが完結するカードレスで便利な世界がますます広がりそうだ。