男性保育士の女児着替えやオムツ替えに関し、保護者から抵抗の声が上がる一方で、性別の差別として問題提議をする声もある。そんな中、現場にいる保育士はどのように感じているのだろうか。今回、助産師や保育士、臨床心理士などの専門職により構成された母子支援チーム「Newborn Family サポート協会」のメンバーに話をうかがった。
女性社会に飛び込む覚悟を決めた人たち
2013年度の厚生労働省雇用均等・児童家庭局保育課のデータにはなるが、保育士登録者数が約118万9,000人の内、女性は約113万9,000人、男性は約5万人であり、女性:男性の比率は96:4であった。現在では男性保育士の割合は以前よりも増えているものの、保育士は"女性の世界"という認識が強いということに変わりはない。
今回、話をうかがったのは同協会のメンバーで、東京都の認証保育園と認可保育園を5年、幼児教室を3年勤め、現在は神奈川県で無認可託児室のオーナーとして活躍している藤實智子さん。初めて男性の保育士と一緒に働いたのは、2011年に勤めていた認可保育園で、その時は保育士20人中、3人が男性だったと言う。
「私から見て、男性保育士は真面目で人一倍頑張り屋さんで、すごく子どものことが好きなんだなということが伝わってきました。女性はこれまでの長い歴史の中で、子育てを担うことがほとんどでしたので、男性と比較した場合、『自分は保育士にむいている』と感じる女性も多いと思います。ですから、そういった女性中心の職場に男性が入るのには、相当の覚悟が必要になるでしょう。当たり前ですが、保育士になるには勉強が必要で、十分な知識を得ないとなれません」。
保護者からも「男性がいると心強い」
また、女性が多い業種ゆえに男性保育士が必要になることもある。力仕事もそうだが、防犯という点でもそれが言える。現代社会では、子どもを誘拐から守るために親もさまざまな対策をしており、藤實さんも「公園などに散歩に行く時は必ず男性保育士を同行させていました。実際、保護者からも『男性がいると心強い』という声もありましたし」と言う。
加えて、男の子へのトイレトレーニングに関して、指導はするものの実感がないゆえに、「これであっているのかな」と思うことがあったと話す。そんな時に男性保育士がいてくれたら、同じ保育士としても心強いものだろう。
「これは個人的な考えではありますが、男性だからと意識をしすぎるのはどうなんだろうという懸念はあります。子どもたちに『何でこの先生だと駄目なの? 』というような不安を、必要以上に抱かせかねないのではという。特に今、母子家庭も増えていますし、せっかく保育園に男性保育士がいるのであれば、もっと関わって触れ合う機会があってもいいのでは、とは思っています。
もし、『あれ? 』って思うような人がいれば周りの保育士が気づくと思います。それに気づいて、その園が対処することで問題は避けられるのではないでしょうか。現場にいる私たちからすると、着替えやオムツ換えでのトラブルはないと思っています。どうしても世間ではネガティブなことが広く伝わってしまいますが、ほとんどの保育士は性別を問わず、本当に熱心な保育のプロフェッショナルです。性別による偏見はもってほしくないと思います」。
世間の声にあわせて配慮も必要
同協会の代表で助産師としても活躍している城所眞紀子さんは、「性別の差でそれぞれ得意なことがあります。適材適所を考えることが大事なのではないでしょうか」と話す。
「世間的にそうした不安があるということであれば、着替えやオムツ替え、トイレにおいては、男児には男性保育士を、女児には女性保育士を、それぞれ配慮することも必要になるでしょう。男性保育士がひとりでという環境にならないよう、女性保育士をつけるというのもそうです。ただ、個人的なことを言うと、私には男の子がいますが、男性の先生がいると身体をつかって遊んでくれるので頼もしいと感じています」。
保育園に限らず、わが子のために保護者が最大限の配慮を求めるのは当然のことだろう。保育園側としては可視化できる安全性を構築することが大切になるが、その一方で、子どもの健全な成長のために本当に求められていることは何なのか、多様化した現代社会と照らし合わせて考えることが必要なのではないだろうか。
※写真はイメージで本文とは関係ありません
プロフィール: Newborn Family サポート協会
専門職(助産師・看護師・臨床心理士・栄養士・歯科衛生士・整体師・保育士・ドゥーラ等)により構成された母子支援チーム。「Fami Liko」を通じて、会員制サポートのprimary care部門・有償ボランティア団体を併設したwelfare部門の二本柱で家族の状況に合わせた、より個別的なニーズに応ずる柔軟な体制を基盤にサポートを提供している。