"神々の峰"にして恵みを祈願する"聖地"でもある「出羽三山」(山形県鶴岡市/西村山郡)。修験の山として広く信仰されてきた山ゆえに、現在も山伏修行が行われている。ベストシーズンは7~8月だが、雪深き山は夏とはまた違った神秘を感じられるだろう。出羽三山に伝わる精進料理とともに、冬の出羽三山を垣間見てきた。
地元民もびっくりの最強寒波
出羽三山は、羽黒山(標高414m)、月山(標高1,984m)、湯殿山(標高1,504m)の3つの山からなり、1,400年以上昔、崇峻天皇の皇子である蜂子皇子によって開山されたと言われている。羽黒山では現世利益を、月山で死後の体験を、湯殿山で生まれ変わるという、「三関三度(さんかんさんど)の霊山」として信仰されてきた歴史がある。
古の足跡をたどり、三山を参拝するのが最も望ましいとは言え、実は筆者が出羽三山を訪れたのは、地元の人も「一夜でこんなにドカ降りになるのは3年ぶり」というくらいの、"最強寒波"が訪れた日だった。同じ山形県の大蔵村では、積雪量が251cmにもなったという。
時折、吹雪にも変わる天候で、とても深くにまで分け入ることができない状態。地元の人々にも「すごいタイミングでいらっしゃいましたね」と言われたが、「逆に、こんな風景が見られるのは今だけだと思いますよ」という言葉に胸をなでおろした。冬期の間、月山と湯殿山は雪のため閉鎖となる。つまり、出羽三山の中で一年中参拝できるのは羽黒山のみとなる。
精進料理でおいしく清める
参拝の前にはぜひ、身を清めるためにも山の麓で精進料理を。羽黒山の門前町には宿坊がある。江戸時代には300以上あったようだが、今は30程度の宿坊が軒を連ね、訪れる人を温かくもてなしてくれる。それぞれの宿坊では、山の恵みを受けたものだけでつくられた、こだわりの精進料理を振る舞っている。
それぞれの料理の素材は、山菜やキノコ、木の実、野菜、米、果実など、出羽三山の恵みをいっぱいに詰め込んだものばかり。精進料理を食べて出羽三山と一体化する、という意味もあるそうだ。その宿や店によって特徴が出るのが胡麻豆腐。筆者が訪れた旅館「多聞館」の胡麻豆腐は、ユリ根とショウガを添え、甘じょっぱいあんがたっぷりかけられたもので、スイーツのようにとろける胡麻豆腐だった。ほかの宿や店などでは、胡麻でなくクルミを使った豆腐だったり、片栗粉の代わりにくずを使っていたりと、味わいはそれぞれだ。
門前町では「出羽三山精進料理プロジェクト」として、それぞれの宿坊・旅館・食事処がオリジナルの精進料理を提供している。全て予約制になるが、5品/税別1,500円、7品/税別2,000円、9品/税別2,500円と価格を統一している。また、宿泊する場合も、希望者には精進料理が振る舞われるので、ぜひここだけの味を楽しんでいただきたい。
三神合祭殿で三山めぐりを
精進料理で心身ともに準備ができたら、いざ、雪深き羽黒山へ。出羽三山の道は今回、山伏の田村廣実さんに案内いただいた。とは言え、この雪である。絶対訪れておきたい羽黒山の「出羽三山神社三神合祭殿」に、標準を絞って訪れることにした。
三神合祭殿はその名の通り、羽黒山・月山・湯殿山の三神を合祭した大社殿であり、ここを参拝すれば三山をめぐったこととされる。羽黒山の山頂には駐車場があり、バスなら鶴岡市から庄内交通バス羽黒山行きで50分、車なら山形自動車道鶴岡ICから鶴岡・羽黒線経由で約10kmとなる。この駐車場から三神合祭殿へは歩いて5分程度だ。
現在の合祭殿は文政元(1818)年に再建されたものではあるものの、厚さ2.1mにもなる萱葺屋根や総漆塗の内部など、迫力ある姿を今にとどめている。また、合祭殿の前には神秘の御池として古来より信仰を集めてきた「鏡池」もある。
残念ながらこの日、大雪での被害を防ぐために合祭殿の周りには囲いがあり、正面からの参拝道も封鎖されていた。合祭殿内には出羽三山神社参集殿から参拝が可能なので、もし封鎖されていても諦めないでいただきたい。また、参集殿の前には国の重要文化財にも認定されている「鐘楼と建治の大鐘」がある。東大寺・金剛峰寺と並ぶ歴史あるこの古鐘も、一見の価値ありだ。
この時は訪れることを諦めたが、羽黒山には国宝の「五重塔」がある。現在の塔は約600年前に再建されたものだが、東北地方では最古の塔とされており、柿葺の三間五層の優美な姿は、周辺の凛とそびえる杉とともに一層の神聖な空気をかもし出す。この"忘れ物"ゆえに、再訪する理由ができた。
取材協力: きらきら羽越観光圏