12月14日、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は定例のFOMC(連邦公開市場委員会)を開催して、政策金利を従来の0.25-0.50%から0.50-0.75%へ、0.25%引き上げることを全会一致で決定した。

FRBの利上げは、2008年に発生したリーマン・ショック後では昨年12月に次いで2度目となった。声明文によれば、利上げの根拠は「労働市場と物価の実際や見通しに鑑みて」だった。 米国経済は絶好調というわけではない。それでも、緩やかな景気拡大が続いており、失業率は11月に4.6%と米国としては完全雇用といえる水準に到達。物価上昇率はFRBが目標とする2%に届いていないものの、これにジリジリと接近している。そうしたなかで、産油国の減産協定を受けた原油価格の上昇や、大統領選挙後の株高など「トランプ・ラリー」も利上げを後押しした可能性がある。

もっとも、大統領選挙の帰趨が判明するかなり前から、FRBは利上げの準備を進めていた。9月のFOMCでは、声明文で「利上げの根拠は強まった」としつつ、「目標達成に向けた更なる進捗を待つことにした」との理由で利上げを見送っている。この決定に対して、FOMCで投票権を持つ10人のメンバーのうち、3人もが即時利上げを主張して反対票を投じるという異例の事態だった。

大統領選挙の結果次第で経済・金融市場に悪影響が出かねないために利上げを見送っていたが、その懸念が大きく後退したから今回利上げに踏み切ったというところだろう。

さて、市場が関心を持っているのは、今後の利上げペースがどうなるかという点だ。今後について声明文では、「FFレート(政策金利)の緩やかな引き上げだけが正当化されるだろう」として、従来の見解を繰り返した。ただし、声明文と同時に公表された経済・金融政策見通しは2017年中に3回の利上げを示唆する内容だった。前回9月時点では2回だったので、ややタカ派色(利上げに積極的という意味)を強めたことになる。これがサプライズだったために、予想通りの利上げだったにもかかわらず、市場金利やドルは大幅に上昇した。

FOMC後の会見で、イエレン議長は、「財政政策の変化を見通しに盛り込んだ参加者も数人はいた」、「完全雇用を達成するのに、財政刺激が必要ないことは明らかだ」と語っている。これはトランプ次期大統領が主張している減税やインフラ投資に言及したものとみられる。そうした財政面からの景気刺激は必要ないし、実現するならば利上げのペースが早まる可能性もあるというメッセージだろう。 トランプ次期大統領は、2018年2月に任期を迎えるイエレン議長を再任しない方針を公言している。イエレン議長の発言はそれに対する意趣返しととれなくもない。

いずれにせよ、FRBの利上げペースが早まるかどうかは、今後の経済・物価動向とともに、トランプ次期大統領の経済政策がどのように実現するのか(しないのか)に大きく依存することになりそうだ。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフアナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。

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