足元で、世界的に長期金利の上昇が目立ってきた(長期金利とは通常、10年物国債の流通利回りを指す)。日本の長期金利も、今年3月以降、ほぼマイナスの状態が続いていたが、久しぶりにプラスに転じている。

長期金利上昇の背景には、もともと世界景気の改善への期待がある。2014年夏以降に大幅に下落した原油価格は今年2月にようやく底打ちした。鉄鉱石やアルミの価格も今年に入ってジリジリと上昇している。

今年前半に思わぬ低迷をみた米国景気は後半に入って勢いを取り戻しており、FRB(連邦準備制度理事会)は昨年12月以来となる追加利上げのタイミングを模索している。また、鉄道貨物輸送量で見る限り、中国のモノの経済の減速にも歯止めがかかってきたようだ。

そして、6月の英国民投票での「BREXIT(EU離脱)」決定は世界経済・金融市場への大きな打撃が懸念されたが、それは今のところ杞憂に終わっている(と言っても、英国とEUとの離脱交渉は始まってもいないが)。

そうした状況下で、長期金利に上昇圧力が加わるのは不思議ではない。

もっとも、11月に入ってからの長期金利急騰は、米大統領選でのトランプ氏勝利を抜きにしては語れない。トランプ勝利を受けて、長期金利が上昇しただけでなく、株価は連日高値を更新し、ドルの実効レートは13年ぶりの水準まで上昇した。金利高、株高、ドル高の3つが同時に示現しているので、共通のキーワードは「高い経済成長(への期待)」と言えるだろう。

実際、金融市場は「トランプ・ユーフォリア」と呼べるような高揚感に支配されている。たまに、「トランプ大統領も案外悪くないんじゃないか」との評価も聞こえてくるが、これは金融市場のポジティブな反応が先にあったからこそで、因果はその逆ではないだろう。

確かに、トランプ氏が提唱する所得減税やインフラ投資は、実現すれば経済成長率を高めるだろう。それは「良い金利の上昇」要因である。一方で、トランプ氏はそれらの財源について明言しておらず、財源が確保されなければ、財政赤字の拡大につながるだろう。その場合は国債の増発を通じて、国債価格の下落(=長期金利の上昇)につながりかねない。いわゆる「悪い金利の上昇」だ。

悪い金利の上昇は、株高ではなく株安、通貨高ではなく通貨安をもたらすものだ。トランプ氏の経済政策には不確定要素が大きいため、現在の「良い金利の上昇」がいつ「悪い金利の上昇」に変化しないとも限らない。

そして、米国の長期金利は世界の長期金利の基準となるだけに、世界的な長期金利の上昇は世界経済に急ブレーキをかけるリスクをはらんでいるとも言える。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフアナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。

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