本田技研工業がライドシェアのグラブ(Grab Inc.、シンガポール)との協業を検討する。東南アジアにおける二輪車シェアリング分野において、ホンダとグラブは協業の検討を開始する覚書を締結した。“所有から共同利用へ”とバイクの使用形態が変化する可能性を見据えてホンダが動いた形だが、世界的なライドシェアの勢力図を考えると、ホンダとグラブの提携には大きな意味がありそうだ。

すでに出資を済ませたホンダ

グラブは東南アジアのライドシェア大手。現在はシンガポール、インドネシア、フィリピン、マレーシア、タイ、ベトナムでサービスを展開しているほか、米リフト(Lyft)との提携関係により、グラブのサービスは米国でも利用可能となっている。

ホンダはグラブが展開する二輪車の配車サービス「GrabBike」で協業を検討する。ホンダは二輪車のラインアップと販売網やサービスなどのリソースを活用し、東南アジアでの試験的な取り組みを通して、シェアリング領域での新しい移動サービスの実現を目指すという。

2015年度決算を見ると、ホンダグループの二輪車販売台数は1,705万5,000台で、そのうちアジア向けは1,659万5,000台だ(画像はインドネシアで生産・販売する「CBR250RR」)

具体的には、ホンダ独自のテレマティクス(双方向情報通信サービス)技術などを活用し、都市部での渋滞緩和への取り組みを進めるほか、環境性能の高い二輪車を採用することで、CO2排出量のさらなる低減に向けた活動を進める。その他には、ホンダの交通教育のノウハウや施設を活用し、二輪ドライバーの安全意識の向上などにも取り組む。グラブの発表によれば、ホンダはすでにグラブに対する出資を済ませているようだ。

今回は二輪車の配車サービスに限った協業のようだが、ホンダとグラブが自動車のシェアリングでも提携関係に入った場合、ライドシェア業界の勢力図はどうなるのだろうか。

ホンダが組む相手はウーバーの対抗馬

グラブはリフトと提携関係にあり、リフトは中国のライドシェア大手である滴滴(Didi)ともパートナーシップを結んでいる。ライドシェアの先駆者といえば米ウーバー(Uber)だが、リフトらはウーバーの対抗馬として勢力を拡大しているのだ。

リフトらの陣営は異業種との提携も進めている。整理してみると、まずリフトは自動車大手の米GMと組んでいる。グラブは自動運転のソフトウェア開発を手掛ける米ヌートノミー(nuTonomy)と協力しており、自動車リース・レンタル事業では東京センチュリーと戦略的パートナーシップを結んでいる。グラブにはソフトバンクが出資しており、グラブのMing Maa社長はソフトバンクの出身だ。

ホンダとGMは水素燃料電池を共同開発する間柄であり、ホンダとソフトバンクは人工知能(AI)分野で協力関係にある。こうしてみると、リフト/グラブ/滴滴の陣営には、様々な分野で協力関係にある企業が続々と集まってきているような感じを受ける。一方のウーバーはトヨタ自動車およびボルボと提携関係にある。

自動車業界で販売台数が多い、いわゆる“1,000万台クラブ”のライドシェア分野における動きを見ると、GMはリフト陣営、トヨタはウーバー、独フォルクスワーゲンはイスラエルの配車サービス業者であるゲット(Gett)と協力関係にある。ホンダとグラブの協業がどこまで踏み込むかは未知数だが、ホンダがグラブとガッチリ組めば、大きなくくりでいうとリフト陣営に自動車販売台数で500万台規模の企業が加わることになるわけで、緒に就いたばかりのライドシェア勢力争いにも大きなインパクトを与えそうだ。