猫の知能は人間に換算すると大まかに2~3歳と言われています。この数字にあまり根拠なく、おそらく人の成長に伴う思考の発達段階を分類した「ピアジュの発達段階」を参考にしているのではないかと思われます。
ピアジュの発達段階では0~2歳は感覚-運動期と分類されます。生まれたばかりの子供は目の前にある物をスライドで隠したとき、その物が世の中から存在しなくなったように振る舞います。成長するにつれて、物と動作の関係を理解すると、スライドの背後に物が存在する事を理解します。実験により、猫もこの「物の永続性」は理解できていることがわかっています。
しかし、もう1段進んだ認知テストではどうでしょう。今度はある物を容器に入れ、一度その容器を隠し、次にその容器が現れた時に、ある物がその中に入っていると予想する。これは2歳の子はほとんどができることです。しかし、猫はある物を大好きなごちそうに代えてもこのテストをクリアできませんでした。
猫の知性に関する研究は驚くほど進んでいない
動物知性の分野では犬に比べて、猫の知的能力に関する研究はほとんど行われていません。これは単純に猫よりも犬の方が訓練を行いやすく、また猫の行動は人間からすると合理的でないことが多すぎるからです。
猫は認知する能力が低い
ある研究ではロープにごちそうを結びつけ、取っ手を引っ張ると箱から出せる装置を使って猫を訓練しました。多くの猫はやすやすとごちそうを手にしましたが、ロープの数を増やすと問題が起こりました。
最初の取っ手のみにご馳走が繋がっている事を覚えさせようとしましたが、猫はどちらのロープも引っ張り続けました。猫はロープを引けばごちそうが手に入ることはわかっても、最初のロープだけにごちそうがあると推測することはできませんでした。同様の問題を犬はクリアしました。
3次元空間を理解する能力は長けている
猫の、空間を把握する能力は高いです。ジャンプして戸棚に上がるときに、実際には見えない棚の上の状況を記憶しており、安全な場所にしか飛び乗りません。そして一度通ったことがある道から最短距離を計算することができ、また入り組んだ立体的な空間でも迷うことはありません。
狩りの時には頭を使う
また、猫の前でおもちゃが小さな仕切りの陰に隠れるように移動させた時、一度視界を遮っても常に正しい場所を選んで探しました。そして、おもちゃににじみ寄る時にあえて遠回りをすることがありました。これは猫がネズミを追跡している時に、ネズミが猫の居場所を勘違いするよう仕向けるためです。猫は、獲物を騙す時は知性を発揮するようです。
判断の速さ、警戒心の高さ、記憶力の良さ
猫の場合、生き残るための能力が最大限に発揮されるようです。まとめると、次の3つです。
(1)判断の速さ……(例)猫は自分より手強そうな相手が現れるとたちまち逃げる体制をとります。
(2)警戒心の高さ……(例)猫は薬を飲ませるのが大変な動物です。食事に混ぜても些細な違いに気づき警戒するからです。
(3)記憶力の良さ……(例)動物病院での注射など嫌なことに関しては、たとえ子猫の時の事でも一生覚えています。
猫の知性は、狩りや、危機的な状況など、生死に関わる場面で限定的に発揮されているようです。猫に人間的な知能テストを行うと赤点を取りそうですが、それはテスト内容が人間の考える知能に偏っているからです。2歳の子供が何かを追いかける時に、あえて遠回りをする発想があるでしょうか。
知能の指標の1つにIQなどがありますが、何を持って知能が高いといえるかは人でも議論の余地があります。そのため動物の知能を人間の年齢に換算することはとても難しいです。
ある猫派は人が行う実験では猫の知能は測れないと考えます、なぜなら「猫は人に従う必要がない事を理解しているほど賢いから」です。
■著者プロフィール
山本宗伸
獣医師。猫の病院 Syu Syu CAT Clinic で副院長を務めた後、マンハッタン猫専門病院で研修を積み帰国。現在は猫専門動物病院 Tokyo Cat Specialistsの院長を務めている。ブログ nekopeidaも毎月更新中。