子宮の両側に一つずつ位置する卵巣は、排卵や女性ホルモンの分泌を担う、女性にとって重要な器官です。しかし、卵巣がんや卵巣のう腫などの病気(卵巣腫瘍)になると、その卵巣を摘出しなければいけなくなることもあります。
では、卵巣摘出手術は、女性の生活にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
切除・摘出術が行われる卵巣腫瘍の種類
まずは、卵巣切除や摘出に至る可能性のある病気のリスクについて知っておきましょう。主に次に挙げる病気の治療では、進行期(ステージ)などによって、片方または両方の卵巣を手術で切除や摘出する必要があります。
卵巣のう腫
「卵巣のう腫」とは、卵巣にできる良性腫瘍の一種です。のう腫が握りこぶしの大きさくらいまではほとんど自覚症状がありませんが、腫れて小児の頭くらいの大きさになると、下腹部の張りやしこりを感じる、お腹が出てくるなどの症状が現れることがあります。また、卵巣と子宮・骨盤とをつなぐ靭帯に「茎捻転(けいねんてん)」と呼ばれるねじれを起こすと、急激な痛みを起こします。
のう腫が小さいうちは定期的な診察で経過を見ますが、7~8cm以上ある場合や茎捻転を起こした場合には、通常、のう腫の部分を切除する手術を行います。のう種の大きさや卵巣正常部分の様子によっては、卵巣全体を含めた摘出が必要になる場合があります。
卵巣がん
卵巣にできる悪性腫瘍が「卵巣がん」です。卵巣がんも、卵巣のう腫と同様、初期にはほとんど症状がありません。腹水がたまったり、腫瘍が小児の頭くらいの大きさになったりして、ようやく下腹部の張りや頻尿、便秘などの症状が出てきます。
検査で卵巣がんが発見された場合は、早めに卵巣の摘出手術を行う必要があります。通常は、初期である1a期に発見できれば片方の卵巣と卵管の摘出だけで済みます。しかし、がんが両方の卵巣に広がる1b期になると、両方の卵巣と卵管をとらなければなりません。さらに1c期以降には、卵巣と卵管のほかに、子宮やリンパ節など、他の組織も摘出するのが一般的です。
子宮がん
子宮がんには、子宮頸部(子宮の入り口)にできる「子宮頸がん」と、子宮の奥の方にできる「子宮体がん」があります。いずれも初期に発見できれば、子宮頸部の組織または子宮だけを取り除く手術で治療できます。しかし、がんが周辺の組織にまで広がる1b期以降の子宮頸がん、2期以降の子宮体がんでは、一般的に、卵巣をはじめ、卵管や膣の一部などまで切除する「広汎子宮全摘出術」が行われます。
卵巣摘出が性生活に及ぼす影響とは
卵巣は、卵子の元となる卵胞を育てて排卵するほか、「卵胞ホルモン(エストロゲン)」と「黄体ホルモン(プロゲステロン)」という2種類の女性ホルモンを分泌する役割を担っています。そのため、手術で両方の卵巣を失うと、女性ホルモンの分泌がなくなり、のぼせやほてり、イライラ、発汗、頭痛といった更年期障害のような症状が出やすくなります。とはいえ、片方の卵巣だけを摘出した場合は、ほとんど日常生活に影響はなく、20代や30代であれば将来の妊娠の可能性もあります。
ホルモン分泌がなくなることのほかに心配なのは、性生活への影響です。子宮がんで、卵巣だけでなく膣の一部まで摘出した場合には、慣れるまではセックスのときに違和感を覚える可能性があります。卵巣と卵管だけの切除の場合は、性生活に大きな影響が出ることは考えられませんが、両方の卵巣がなくなると、膣の分泌液が少なくなって、潤い不足による摩擦の痛みを生じることはあるでしょう。
卵巣摘出後の更年期障害のような症状は、ホルモン療法や漢方薬で治療することも可能です。セックスの痛みについては、潤滑剤を使うという改善方法もあります。手術後の生活では、再発防止のために定期的に検診を受けるとともに、気になる症状や悩みがあれば、まずは医師に相談してみましょう。
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