地下鉄を利用して、宅配便などの荷物を運ぶ。それにより、ドライバー不足や交通渋滞など、物流の抱える課題を解決する。そのための「鉄道を活用した物流実証実験」が、9日から東京メトロ有楽町線・東武東上線で始まった。同日に報道公開も実施された。

実証実験の開始を待つ東京メトロ10000系

「鉄道を活用した物流実証実験」は、東京メトロ・東武鉄道・佐川急便・日本郵便・ヤマト運輸の5社が共同で実施する。今回、報道陣に公開されたのは東京メトロ新木場車両基地で行われた実証実験で、列車に荷物を積み込むための「架台」の設置作業や、列車内が傷つかないように車内にゴムマットを敷く「車両内養生」、荷物の積込みや手すりに固定するためのラッシング作業が実施された。

トラックに積み込まれた模擬貨物は、設置された架台にフォークリフトで持ち上げられ、養生作業が済んだ車内に運び込まれ、荷物は手すりに固定される。その作業が終わった後、実験のための列車は出発となる。

模擬荷物を積んだヤマト運輸のトラック

フォークリフトで設置場所に向かう架台

架台に階段を取り付ける

架台と車両が行き来可能になる

養生作業にとりくむヤマト運輸社員

養生作業が済んだ車内

地下鉄による物流は実現するか - 旅客用施設の活用に課題

東京メトロによると2種類の実証実験を行うという。ひとつは「拠点間輸送」で、物流各社の拠点からトラックで模擬荷物を新木場車両基地に搬入し、東京メトロ10000系車両の1両に荷物を積む。実験専用ダイヤで運行された列車は東京メトロの和光車両基地、もしくは東武鉄道の森林公園検修区で荷物を下ろし、トラックで物流拠点に搬入する。

もうひとつは「拠点~駅間輸送」で、新木場車両基地に搬入された荷物を、新富町駅・銀座一丁目駅・有楽町駅の各駅で、到着した列車から台車1台程度の荷物を下ろし、駅構内を経由して地上まで搬送するというものだ。「模擬荷物」は実際の荷物ではなく、実際の重量を模した段ボールを使う。実験は9月9日から10月15日まで、計10回行われる。

この実験で、作業に必要な時間や人手を把握し、安全性や作業の効率性を検証。施設面で可能かどうかも検証し、どのように旅客輸送に影響していくかを調べるという。

フォークリフトで荷物を架台に乗せる

車内に運びこまれる荷物

手すりに荷物を固定する

固定された荷物

参加事業者5社の当日の話によると、今回の実証実験で「物流の課題に対して解決策を提供したい」とのことである。ただし、「この実験はあくまで第一歩であり、地下鉄が有効かどうかを検証したい。地下鉄による物流が実現するのはまだいつになるかはわからない」ということで、実現はまだ先であるようだ。東京メトロ有楽町線・東武東上線で実験を行う理由については、「新木場車両基地や和光車両基地、森林公園検修区の周辺には物流会社の拠点があり、また、新木場車両基地には余裕があるから」と説明していた。今後の課題としては、「旅客用の施設をどう使うか」だという。

この物流実証実験が成功するには、まず現在の地下鉄の輸送システムが人を運ぶことに特化しており、物を運ぶことに向いているかどうか、またはいまのシステムで物を運べるようにできるかどうかをしっかりと考える必要がある。

「拠点間輸送」なら、車両基地や検修区だけの問題だから、可能性は高いかもしれない。しかし「拠点~駅間輸送」では、乗客も利用する途中駅で荷物を下ろす。その際に、乗客の乗降時間と同程度の時間で荷物を下ろせるかどうか。手すりから固定された荷物を外し、台車に載せた荷物を駅に下ろす。それを数十秒程度でできるのかどうか。場合によっては、ストップウォッチを持ち、秒単位で輸送に関わる人間の動きを考え、ムダがないかどうかを検証するという作業も必要だ。

荷物の積込みが終わり、出発を待つ10000系

荷物を地下鉄で運ぶ、というコンセプトは良い。ドライバー不足や渋滞、環境問題などを考えると、必要性は高いだろう。しかし、細かいところを詰めていくことが実現のためには求められている。