東京都台東区・上野。今も昔も東京の玄関口として知られるこの街にも、銭湯は残る。近いところでは、露天風呂とサウナが人気でいつも満員御礼の「寿湯」、古代檜風呂と炭酸シャワーが魅力の「日の出湯」、そして今回紹介する「鶴の湯」になるだろうか。

"ビル銭湯"の「鶴の湯」へは上野駅から約10分

笑顔が素敵な女将さんがお待ちかね

JR「上野」駅を中央口から出て、首都高を渡り浅草通りを真っすぐ。清洲橋通りを左折して、少し進んだ先、左の路地内に位置している。このルートで行けば徒歩10分くらい。場所を知っている人が、直線的に向かうと、7~8分でたどり着けるだろう。路面にのぼりが出ており、階段上った先、2階部分が入り口になる。

創業は明治初期とも言われるこちらの銭湯、いわゆる"ビル銭湯"の体をとっているのだが、のれんをくぐると意外にも番台銭湯の世界が広がっている。男湯は左手、女湯は右手。下足箱は「おしどり」製の板鍵。引き戸から中へ入って湯銭を払う。番台には笑顔が素敵で、上品な雰囲気をまとった女将さんが座っている。

ビルなので、脱衣所の天井はさすがに高くはない。ロッカーは壁側と中央に。こちらの鍵も「おしどり」製だった。境目側には鏡。マンガ本や、太った金魚が泳ぐ水槽などが並べられている。ほか、ドリンクケースやマッサージチェア、体重計(「MORIYA」製の背の低いはかり)など。背側後方の引き戸を入って、飛び石が敷かれている先がトイレになっている。風情のある木枠のガラス戸を引いて、浴室へ入る。

"飛翔する鶴"とともに46度を味わう

男湯のイメージ(S=シャワー)

中はシンプルな東京型銭湯で、奥に浴槽、手前にカランの構造だ。正面から壁側の一部まで広がって描かれたチップタイル画は、飛翔する鶴をモチーフにしているのは屋号にちなんだものだろう。中央の島カランにはシャワーはなく、三角形型の鏡が取り付けられている。

桶はすべて木桶。3個ずつ、角度をずらして積まれている。この時の相客は2~3人ほど。女湯からは止まらない話し声が聞こえてくるが、こちらでは水と木桶の音だけが響く。湯も定番の浅風呂と深風呂の組み合わせ。紫色がついていて、入浴剤を用いた薬湯になっている。

湯はガツンと熱い。温度計を見ると、46度あたりの目盛りを指している。なるほど、確かに熱いが入れない熱さではないので、短い入浴をクールダウンをはさみながら繰り返すのがいいだろう。

ミニマルなつくりな銭湯だが、居心地は大変良い。長居せず、さっと湯を浴びてリフレッシュする。そんな東京の「粋」も感じられる、上野の銭湯だった。

※記事中の情報は2016年4月時点のもの。イメージ図は筆者の調査に基づくもので正確なものではございません

筆者プロフィール: 高山 洋介(たかやま ようすけ)

1981年生まれ。三重県出身、東京都在住。同人サークル「ENGELERS」にて、主に都内の銭湯を紹介した『東京銭湯』シリーズを制作している。