千葉県柏市が「LINE」の監視アプリを中学1年生の子と親に無償提供

千葉県柏市は4月7日、中学1年生の子と親を対象に「LINE」のやりとりを監視するアプリ「Filii」の無償提供を開始する。期間限定で、市が指定した学校と希望する学校に提供する予定だ。この取り組みを専門家はどのように評価するのか。子どもとネットの関係に詳しいITジャーナリストの高橋暁子さんに聞いた。

ネットトラブル、要注意は中学1年生

柏市が無償提供するのは、SNSやスマートフォンの利用データを取得し、分析する機能を持った「Filii」というアプリ。親子がそれぞれダウンロードすると、子どもの「LINE」上にある危険なやりとり(いじめや有害情報、出会い系、炎上などに関わるワード)を検出し、親に知らせてくれる。

さらに同アプリには、SNSの利用時間帯がわかる機能も市独自で追加。行き過ぎたスマホ利用で子どもたちの日常生活に支障が出ていることから、親に把握してもらう意図がある。4月7日~7月20日の期間に市が指定した5校と希望のある学校で提供予定。期間終了後にアンケート調査を行い、効果が見込めそうであれば、利用料を補助するなどして全市で展開していきたいとしている。

同市はこれまでも、啓発活動などを通じてネットトラブルを防ごうと努力を続けてきた。その中で「中学1年生のトラブルが多い」ということがわかり、利用対象を1年生にしたという。「中学校に入学して1~2週間で、既にクラス内には『LINE』のグループができている。ゴールデンウィーク明けにいじめが出てくる傾向もあるため、対策が必要な時期だと考えた」とのこと。さらに同市の学校警察連絡協議会が行っている調査(平成27年度)によれば、中学1年生から通信機器を使う子どもが多いということもわかっていて、スマホを使い始めるタイミングで対策を徹底したいという思いもあるそうだ。

SNSの運営事業者が対策すべき

市によれば、「LINE」の監視アプリを自治体が導入するのは初めてとのこと。この取り組みについて、専門家はどのように評価するのか。ネットと子どもの関係に詳しいITジャーナリストの高橋暁子さんは、「自治体が対応を迫られ、追い詰められている感じがする」と率直な感想を寄せた。保護者も知識が乏しいネットの問題は、学校に対策を求められがちだという。

「これまでのネットいじめは、『学校裏サイト』など行政のネットパトロールが可能な範囲で行われていたため、対策が成果をあげていた。しかし現在は、子どもたちのやりとりの大半が、外から見ることができない『LINE』になっている」とのこと。高橋さんによれば、「LINE」のやりとりを監視するような機能を持ったアプリは限られているため、うまく使えば効果はあるとした。

一方で、「果たしてどれだけの親子がこのアプリを使ってくれるのかは未知数だ」とも語った。同アプリが使えるのは、Androidユーザーのみ。中学生の多くが使用しているというiPhoneでは利用できない。さらに同アプリを利用するには子どもの許可が必要だが、高橋さんは「反発が強いのではないか」と予想している。

「海外では既に、FacebookなどのSNSから子どもたちが逃げ出している。InstagramやSnapchatなど、大人から自分たちの行動を探られない機能を利用するトレンドがある」。最近では小学生から通信機器を使い始めるケースが増えていることもあり、スマホを利用する前の小学生の段階から『監視アプリを入れないとスマホを使わせない』などとする対応が必要だと指摘した。もちろん啓発も欠かせない。

加えて高橋さんは、「SNSの運営事業者に対策を打ってもらうしかないのでは」と話した。最近では東京都が、情報リテラシーの指導について「LINE」と共同研究を実施すると発表。もはや自治体だけの対応では、ネットトラブルは解決できない時代に来ているのかもしれない。