「残業ありフルタイム」では時短から戻れない

21世紀職業財団会長の岩田喜美枝さん。厚生労働省雇用均等・児童家庭局長を経て、資生堂の副社長を務めた経歴を持つ

――女性のキャリアアップは達成できていないのでしょうか。

岩田さん: ほとんどのワーキングマザーがキャリアアップできていないと考えています。多くの企業は、育休の長さは長いほどいい、時短も長いほど女性に優しいと思っていた。そして努力の結果、大手企業であれば仕事と子育ての両立はできるようになってきました。しかしここでの問題は、休んでいる間にキャリアが停滞するということ。ですから仕事を免除するタイプの支援はミニマムであるべきだと思います。

しかし無条件でそれができるかというとできません。実現するためにはフルタイムでありながら、在宅勤務やリモートワークなど、働き方をフレキシブルにしていく必要があります。そして長時間労働は女性活躍の最大の障害であると考えます。長時間労働をそのままにしておいて、フルタイムに戻ろうって言ったって無理ですよ。通常の状態が、残業のない状態ということを当たり前にすることが必要だと思います。

中野さん: 女性に優しい制度が入って、女性の側にも育休や時短を長く取ろうとするカルチャーができてしまっていると思います。まず育休については、保育園の入りにくさが要因としてあります。また時短を長く取ってしまうというのも、岩田さんがおっしゃったように、時短を解除したとたんにフル残業になってしまうからです。

残業をしている人と、定時で帰る人って、実はお給料の差がそんなにない。残業している人たちの中で、自分だけ定時で帰るとなると、働いている時間は1日3~4時間違うのにお給料は変わらない。不公平感が生まれてしまうのです。ですから、時短にして給料が減ったほうがいいと、甘受してしまうパターンが多い印象です。

本来は評価制度が量的な時間の差になっていれば、この問題はなくなります。定時に帰る人がいてもいいし、残業する人がいるのならそれをどういう風に評価するのか、中身を見ていかないと、この問題はいつまでたっても変わりません。

職場の不公平感は管理職の能力のなさが要因

NPO法人ファザーリング・ジャパン理事で、三井物産ロジスティクス・パートナーズ代表取締役の川島高之さん

――川島さんは、上司として評価制度をどのように考えていますか。

川島さん: 「期間の成果」と「個人の能力」は分けて評価しています。時短とか残業ができない人がいるということは、誰かがサポートしているということ。ですから、サポートして成果を出した人に対しては「ホームラン賞」ということで、その期のボーナスで還元します。一方で、時短や残業ができない人はそもそもの打席に立つ数が少ないからホームランは少なくなりがちですが、個人の能力はありますよね。こちらはベース給とか将来の昇進とかに反映させるという形で使い分けしています。

職場での不公平感は絶対に生まれます。それを解消するのがマネジメントの仕事です。それができないなら管理職失格だと思います。

中野さん: どうしても多くの人が「子どもをうんだ女性」と「独身女性」の対立構造を作りたがるけれど、不公平感が生まれる原因は、管理職の仕事のできなさにありますよね。

藤本さん: どうしても時短で働いていたり育休をとっていたりすると、自分のキャリアへの不安が増してきます。そこで、安心して就業を継続していい、少し働き方や労働時間を見直したらどうかと上司から発信していくことが必要ですよね。そうして初めて働いている彼女たちのモチベーションが上がり、覚悟ができてくるのではないでしょうか。ですから、管理職の役割は非常に大きい。数字や成果を残せる人=マネジメントができる人ではないと思うので、そこはさらに上の管理職の人が見極める必要があると思います。