子どもが急に熱を出した、でも仕事は休めないし、周りに頼れる人が誰もいない……。そんな時、親たちの味方になってくれるのが「病児保育」。しかし、国内ではまだまだサービスが充実しているとは言えないのが現状だ。なぜ、病児保育は広がらないのか。会員制の訪問型病児保育サービスを提供している、認定NPO法人フローレンス代表理事の駒崎弘樹さんに聞いた。

訪問型病児保育のサービスを提供している認定NPO法人フローレンス代表理事の駒崎弘樹さんに聞いた

国は「施設型」の保育にこだわっている

平成28年度の政府予算案で、国は病児保育の事業に27億円の補助金を計上。「病児保育の拠点となる施設の整備・改修」「施設での子どもたちの対応・送迎をする看護師の雇用」について、新たに補助金をつけた。

――国が進めようとしている病児保育の政策をどう評価しますか。

病児保育に力を入れようとしてくれていること自体はうれしいです。しかし、「施設型保育」への補助にこだわっている点で、病児保育の広がりを妨げていると思います。

――というのはどういうことでしょうか。

現在国が補助を行っているのは、施設に子どもたちを集めて保育する「施設型」の病児保育です。私たちが行っている事業のように、保育スタッフを家庭に派遣して子どもたちをみる「訪問型」の病児保育には、国による補助がありません。しかし、国がいくら「施設型」への補助を増やしても、施設の数は増えません。

それは、現在「施設型」の84%が、小児科の病院に併設された「医院併設型」だからです。小児科の数が上限になるので、それ以上増えない。看護師の配置や施設の運営を考えると、制度設計上、そうならざるを得ない構造になっています。また、「施設型」では預かることのできる子どもの数も限られるし、インフルエンザの子については、ほかの子どもたちに感染する可能性も考えて、受け入れないことも多い。加えて、子どもが施設に来ない日も、看護師や保育士を施設に配置し続けなければならないので、人件費がかかります。経営上、投資対効果が低いのです。

自治体の事業では、病児保育は広がらない

――ほかにもサービスが広がらない理由はありますか。

病児保育が自治体の事業であることも、理由の1つとしてあげられると思います。補助金のある「施設型」の病児保育は、自治体が予算をつくり、事業者を公募しないとできない。しかし自治体に任せている限り、施設の数は増えないと思います。なぜなら、自治体は施設を造っても造らなくても自分たちの給料は変わらないし、何も困らない。一方で、施設を造って失敗した方が怖いわけです。だったらやらなくていい、となってしまう。

――では、どうしたら病児保育のサービスが広がるのでしょうか。

訪問型病児保育のサービスを増やす必要があると思います。このサービスを増やすのはすごく簡単で、利用料金の補助をする「病児保育バウチャー」を国でやればいいと思います。金額にもよりますが、施設型かそれよりちょっと高額な料金で訪問型病児保育のサービスを利用できるようになれば、参入してくる事業者はたくさんあると思いますよ。さらに、子どもたちがいつ来るかわからないのに人員を待機させる「施設型」の人件費に費用を出すより、保育スタッフを派遣するたびにバウチャーを補助した方が無駄うちがないですよね。

――それではどうして国は、「施設型」の病児保育に力を入れているのでしょうか。

国は今までずっと「施設型」の病児保育に補助を出してきたので、その方針を転換するのが難しいのではないでしょうか。これまでやってきたものをがんばりましょう、現状から少しよくしましょう、という方がやりやすいといえば、やりやすいでしょう。

さらに時代背景も影響していると思います。今は待機児童問題がフィーチャーされているので、まずは保育所の整備をなんとかしなければいけない、となっている。病児保育にまで、理解が進んでいないのです。待機児童問題って日本全国の問題じゃないですか。一方で、病児保育は地方でそんなに問題にならない。地方では祖父母との同居率が高かったり、周りに頼れる人がいたりするからです。それから、女性の正社員率もそんなに高くないので。

しかし都市部では、ある程度休みづらい仕事をしている親、特に母親が多い。働く女性が増えているのと、病児保育の認識も上がっているので、ニーズは高まっています。フローレンスでも利用を希望する方は増えていて、2015年の夏にはこちらのサービス供給が追いつかず、入会受付を停止しなければならない事態に陥りました。去年、今年と、一時的に受付を再開しているのですが、2月1日に再開した入会受付については2分で埋まってしまいました。助けを求めている人がいるのに、助けられていない。これはうれしい悲鳴じゃなくて、真摯に反省してキャパシティーを広げなければいけないと思っています。そしてもちろん事業は拡大していきますが、一団体がやるには限界がある。ですから、訪問型病児保育を行う事業者がもっと増えないといけないと思います。

「健康で健常な子ども」以外が除外されている

――フローレンスでは、障害児保育の施設も開園されていますね。

たまたま相談を受けて、世田谷区(東京都)で医療的ケアが必要な子を預かってくれるところを探したんです。そしたら東京中を探してもなかった。世界有数の都市で1人の障害児も預かれないなんて、そんなバカな話はあるかと思いました。

病児保育についても、障害児保育についても、実は保育士養成課程の中ではほとんど習いません。病気のある子だって子どもだし、障害のある子だって子どもなのに、今の保育所は「健康で健常な子」のみを扱っている。だから、保育所でも子どもが熱を出したら「どうしよう、お母さん帰ってきてください」ってなるし、障害があれば「預かれません」となる。本当は全ての子どもたちを受け入れるべきなのに、保育所における保育は、そういう意味で選別しているという認識を私はもっています。

みんな「保育所を増やそう」って一生懸命だし、それはそれで分かりますが、同時に病児保育も圧倒的に足りないし、障害児保育も圧倒的に足りません。ここも増やしていかないと、病気の子どもも障害を持った子どもも排除され続けてしまうので、何とかしてくださいと国には言いたいですね。