最近では、セクハラ、パワハラ、スメハラ、マタハラ……等々、さまざまな種類のハラスメントが巷で問題になっていますが、「スモハラ」もその一種で、スモークハラスメントの略です。
昨年の11月に職場内の喫煙所から漏れた煙による受動喫煙被害で持病の心臓病が悪化したとして、従業員の男性が会社に損害賠償を求めた訴訟で、裁判所が「会社は義務を一応果たしていた」として男性の訴えを棄却する判決を出したことは記憶に新しいと思います。男性は控訴する意向としていますが、そもそも、スモハラとは一体どのようなことを指すのでしょうか。
スモハラとは?
スモークハラスメント(スモハラ)とは、喫煙者が煙草を吸わない人に対して煙草を吸うことを強制したり、煙草を吸ったりしたことによって周りにいる他人に迷惑をかけること(受動喫煙)等を言います。
煙草を吸っている人の近くにいると、洋服に煙草の匂いが付いたり目が痛くなったり咳が止まらなくなったりします。しかし悪影響はそれだけにとどまらず、煙草には発ガン性物質が入っているため、煙草を吸っている本人はもちろん、周りにいる人の健康にも影響を及ぼすおそれがあります。自らの健康を害してでも煙草を吸いたいと思うのであれば煙草を吸うことは自由です。しかし、周りにいる人は自らそのような選択をしていないのに、他人の選択によって健康を害されることになってしまいます。今回は「就労時間中の喫煙」についてご説明いたします。
煙草を吸いに行く時間は休憩時間に入らないの?
煙草を吸いに行く時間は実際には働いていない以上、労働時間に入るなんておかしいと考える人は多いと思いますし、喫煙者が煙草を吸っている時間と煙草を吸わない人が働いている時間を同じように扱うのは不公平のような気がするのはもっともだと思います。
法的には労働時間とは、会社の指揮監督下に置かれている時間をいうものとされています。裁判例の中には、煙草を吸いに行っている時間も労働時間に含まれるとしたものもあり、煙草を吸いに行く時間が労働時間に含まれるかどうかはケースバイケースです。たとえば、喫煙していたとしても、指示があればいつでも仕事をしなければならない状態にある場合は労働時間にあたりますので、休憩時間には入りません。
会社での喫煙は法律違反ではないのですか?
会社のような多くの人が集まるような場所で煙草を吸うと他人の健康を害するおそれがあるわけですから、「健康増進法に違反するんじゃないの?」と思われる方も少なくないかと思います。そこで、健康増進法に違反するかどうかについてお話しします。
健康増進法では、25条で受動喫煙の防止について定めています。受動喫煙とは、煙草を吸っている人の周りにいる人が煙草の煙を吸うことをいいます。ただし、健康増進法25条は、「学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店その他の多数の者が利用する施設を管理する者は、これらを利用する者について、受動喫煙(室内又はこれに準ずる環境において、他人の煙草の煙を吸わされることをいう。)を防止するために必要な措置を講ずるように努めなければならない。」と定めているだけです。
そのため、多くの人がいる場所で煙草を吸ったとしても、吸った人が健康増進法違反になることはありません。健康増進法違反になる可能性があるのは、あくまでもその施設を管理する人だけということになります。また、労働安全衛生法が改正され、平成27年6月1日から、職場の「受動喫煙防止対策」が事業者の努力義務となりましたが、これも煙草を吸った人を処罰する法律ではありません。
しかし、受動喫煙によって周りの人への重大な健康被害が出るおそれがあることも事実ですので、喫煙者の皆さん自身の配慮も求められています。また、会社として喫煙に関するルールを作るなど、たばこを吸う人も吸わない人も気持ちよく過ごせる職場を作っていけることが理想ですね。
岩沙 好幸(いわさ よしゆき)
弁護士(東京弁護士会所属)。慶應義塾大学経済学部卒業、首都大学東京法科大学院修了。弁護士法人アディーレ法律事務所。 パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を主に扱う。 動物好きでフクロウを飼育中。近著に『ブラック企業に倍返しだ! 弁護士が教える正しい闘い方』(ファミマドットコム)。『弁護士 岩沙好幸の白黒つける労働ブログ』も更新中。
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