3月26日に開業する北海道新幹線の割引料金がこのほど発表され、東京~新函館北斗間で普通車指定席を利用した場合、最安料金が1万5,460円であることが報じられた。
これは同区間の通常料金(2万2,690円)より約3割安く、新幹線の他の路線と比べても遜色のない割引幅といえる。その一方で、地元からは「期待はずれ」といった見方もあるという。新幹線開業まで2カ月あまりとなった北海道・函館で聞いた市民の声とともに、北海道側から見た北海道新幹線の料金について考察してみたい。
割引料金は思ったより安くなかった?
東京~新函館北斗間の最安料金1万5,460円は、JR東日本の「スーパーモバイルSuica特急券」で購入した場合の発売額。これに対し、JR北海道は購入期限が前日までの「北海道ネットきっぷ」と、購入期限が14日前までの「北海道お先にネットきっぷ」を設定。東京~新函館北斗間の発売額は、「北海道ネットきっぷ」が2万1,550円(割引率5%)、「北海道お先にネットきっぷ」が1万7,010円(割引率25%)とされた。つまり、一番安いきっぷはJR北海道では買えないということになる。
「スーパーモバイルSuica特急券」は、「モバイルSuica」に登録した携帯電話やスマートフォンからしか購入できないが、北海道での普及率は相当低いとみられ、道民にとって縁遠い印象を与えてしまっているのは否めない。
JR北海道の割引きっぷ2種類については、どちらもネット限定、かつ片道設定のみであることへの不満の声が少なくないようだ。市民からは「ネット環境のない人や高齢者は恩恵を受けられなくなってしまう」「クレジットカード必須なので、シニア層だけでなく学生や若者もハードルが高い」といった指摘が聞かれた。ある鉄道愛好家は「みどりの窓口や旅行代理店の窓口でも容易に手に入る往復タイプの割引乗車券に戻すべき」と憤る。
JR北海道の設定した割引料金より、東京~函館間の航空機割引料金のほうが安い場合もあるという事実も地域住民に衝撃を与えており、「新幹線が高ければ飛行機を使えば良いじゃない、ということ。それ以上でもそれ以下でもない」との割りきった声もあった。
看板に偽りあり!? 「割引料金のほうが高い」逆転現象も
北海道新幹線新函館開業対策推進機構事務局長の永澤大樹氏は、JR北海道の割引きっぷが通常購入(当日購入)よりも高くなるという珍現象を指摘する。
これは片道601km以上の区間を往復利用した場合に生じる現象で、大宮~函館間往復(アクセス列車+新幹線)の場合、13日前~1日前のネット予約では合計4万2,000円となるが、同じ区間を当日に窓口で購入すると、往復4万1,600円で済む。同じく東京~函館間往復も、ネット予約の4万3,820円に対し、当日購入は4万3,640円とわずかに安くなる。
この現象は、JRにおいて片道601km以上の区間で往復乗車券を利用した場合、行き・帰りともに乗車券が1割引になるというしくみにからくりがある。ネット予約は片道の乗車券・特急券を合計した発売額の5%引きとなるため、乗車券の額が特急料金を上回る区間ではネット予約より通常購入のほうが安くなるという逆転現象が生まれるのだという。利用時には覚えておきたい情報だ。
北海道発本州方面の割引きっぷ全廃に怒りの声
北海道新幹線開業にともない、本州方面を目的地とする北海道内発の割引きっぷはすべて廃止されることに。鉄道をよく利用する人の間では、とくに「東京往復割引切符」「青森・弘前フリーきっぷ」の廃止がかなりの痛手になるとの話題で持ちきりだ。
「東京往復割引切符」は札幌・函館と首都圏のフリーエリアを結ぶ6日間有効の往復タイプの乗車券。現行では、このきっぷを利用して津軽海峡線・東北新幹線を乗り継げば、年間を通じて3万円弱で函館~東京間を往復できた。さらに東京・成田・大宮などの首都圏フリー乗車6日分が付帯するため、かなりお得なきっぷとして、ビジネス客などに評判だった。
ところが北海道新幹線開業後は、「北海道お先にネットきっぷ」で14日前までに購入しても東京~新函館北斗間往復だけで3万4,020円に値上げとなり、さらに函館~新函館北斗間の往復運賃と首都圏での移動に要する交通費を足すとかなりの負担増となる。直近や当日の購入だと、さらに現行との価格差が広がることから、「せっかく乗り換えなしで東京へ行けるようになるのに、利用する気が失せてしまう」と意気消沈する声も。
函館~青森間でもこの問題は顕著で、「青函の交流が阻害されかねない」と指摘する人も少なくない。新幹線で所要時間が短縮されるのに、一体どういうわけか。
その答えは、現在設定されている「青森・弘前フリーきっぷ」にある。函館~青森・新青森間の特急列車往復乗車と青森~弘前間のフリーエリア乗り放題を組み合わせた4日間有効のきっぷで、指定席用と自由席用があるが、ほとんどの場合、自由席に余裕があるため、6,990円の自由席用を利用する人も多かったとみられる。
函館~青森間の所要時間は、現行の特急列車で2時間弱だが、これは北海道新幹線が開業してもほとんど短縮されない。まず、北海道新幹線新函館北斗~新青森間の所要時間がおよそ1時間。これに函館~新函館北斗間の所要時間(約20分)と新青森~青森間の所要時間(約4分)を合わせると、単純計算でおよそ1時間30分、さらにそれぞれの乗継ぎ時間を合わせると、新幹線による時短効果は限りなく小さくなる。
その一方で料金は値上げとなり、前日まで購入で往復1万1,600円(片道5,800円)、14日前までの購入でも往復8,700円(片道4,350円)となる。函館市でまちあるきガイドを務める男性は、「津軽海峡交流圏として、函館・青森・弘前・八戸などの人が互いに交流を深めて地域を盛り上げようと図っているところに、この料金はちょっといただけない」と語る。函館・青森両地域の住民からすれば、乗換えが2度も増えて所要時間もほとんど短縮されないのに、料金だけ大幅に上がったと感じるのも無理のない話だ。
別の男性も、「特急から新幹線になったのだから料金が高くなるのは仕方ないと思うが、あまりに差が大きい。特急が廃止され、新幹線しか選択肢がなくなる路線で、このやり方はないんじゃないかと思う」と話した。函館の大学に通う東北出身の女子学生は、「進学を期に函館に来た東北出身の友人たちは、帰省の時にこれまでより不便になる気がすると言っている」と教えてくれた。
函館市民の間では、「青函の行き来に限って言えば、新幹線開業以降はJRからフェリーに一定数の利用者が流れるのでは」ともささやかれる。北海道新幹線開業で函館~青森間を通して走る在来線旅客列車がなくなり、新幹線の代替交通手段として「遅いけど安い」フェリーに再び注目が集まるのではないかという観測だ。
開業2年目以降に期待する声も
ネガティブな話題が取り上げられがちな北海道新幹線ではあるが、もちろん地元でも開業に期待する声は日に日に高まっており、新幹線特需を見込んださまざまな動きも活発化している。JR北海道や北海道新幹線に対する不満や批判も、期待が大きいことの裏返しといえるかもしれない。
JR北海道は割引料金について、「開業後の利用状況を見て改善したい」と会見で述べたという。鉄道事情に詳しいある市民は、「開業初年度は『一度は乗ってみたい』との需要があるので、高く設定してもいけるという判断では」と分析。「開業2年目で利用者数が落ち着いた頃に割引きっぷを拡大しようという考えだと思う」と期待を込めて語った。