高度異形成・上皮内がんなら子宮温存だが……

子宮頸がんは若い女性が気をつけたい婦人科系の病気です

近年、子宮頸(けい)がん検診や予防ワクチン接種などの情報提供がされるようになり、広く予防の重要性が訴えられるようになってきた。一方で、一度も検診を受けたことがない人や、定期的には受けていない人も多いのではないだろうか。

そこで今回、子宮頸がんがどういう病気で、なぜ予防が大切なのか、そして女性の人生にどんな影響を与えるのかについて、女性ライフクリニック銀座の対馬ルリ子院長に伺った。前編と後編にわたってお届けしよう。

異変に気づいたら、もう初期ではない

「子宮頸がん」は、子宮の入り口(子宮頸部)にできるがんで、20~40代でかかる人が多い病気だ。これに対し、子宮の奥(子宮体部)にできるがんを「子宮体がん」といい、閉経後の50代に多く見られる。

恐らくどんな病気でも、気になる症状があってから初めて病院に行く人が少なくないはずだ。子宮頸がんの場合は、下腹部痛や不正出血、おりものの異常などの異変を見逃さなければ、初期の段階で発見できると思っている人がいるかもしれない。

しかし、「症状が出てからでは、もう初期ではありません」と対馬院長は語る。「"症状があったら病院へ行きましょう"では、私はよくないと思います。子宮頸がんは、がんになる前に定期的な検診で見つけることが大切。症状があってから病院に行って、子宮頸がんが見つかったときには、それはもう初期がんではなく進行がんであることがほとんどですから」。

原因は主に性交渉によるHPV感染

子宮頸がんの原因は、「ヒトパピローマウイルス(HPV)」の感染ということが明らかになっている。ただしHPVに感染しても自然消滅してがん化しない人と、数年から10年ほどの潜伏期間を経てがん化(突然変異)してしまう人に分かれることがポイントだ。

「一生の中で80%ぐらいの女性が一度はHPVに感染しているといわれています。その中で自然に排除されずに持続感染する人は、約10~20%です」。

また、どのタイプのウイルスに感染しているのかも重要だ。HPVはさまざまな型があるが、16型と18型はがん化しやすい"ハイリスク型"に該当する。ハイリスク型は20~30代の女性に多い傾向があるため、子宮頸がんは若い女性が特に注意すべき病気として扱われ、検診の重要性が叫ばれているのだ。

1回のセックスで感染することも

そして、主に性交渉によって感染するといわれるHPV。このことからか、世間には「子宮頸がんになる女性は性交渉の回数が多い」という偏見もある。しかし、対馬院長は次のように正す。

「性交渉を1回でもしたことがある女性であれば、子宮頸がんになる可能性はあります。逆に言うと、生涯で一度も性交渉をしない人でない限り、子宮頸がんにならないとは言えません」。

さらに、HPVは性器以外にも手指などいたるところに存在しているため、コンドームでは感染を防ぐことができないという。性交渉の経験がある女性であれば誰にでもHPVに感染するリスクがある、と認識しておこう。

子宮頸がんのステージと手術内容

「高度異形成」の場合は子宮頸部の一部切除手術で、その後の妊娠・出産も可能

HPVに持続感染すると、「異形成」というがん化する前の異常細胞(前がん病変)が生じ、異形成の中でもっともがん化する確率が高くなっているものを「高度異形成」という。がん化すると、進行に応じて0期~4期に分類される。0期は上皮(子宮頸部の表面)内に、1期は子宮頸部内にがんがとどまっている状態で、2期以降は子宮周囲の組織まで広がっていくことになる。また、0期は「上皮内がん」、1期以降は上皮以外にがんが広がっていることから「浸潤がん」と呼ばれている。

治療では、高度異形成や上皮内がん(0期)で見つかった場合は、子宮頸部の一部を切除する「円錐(すい)切除術」が行われる。子宮が温存できるため、その後の妊娠・出産も可能だ。

一方、通常の浸潤がんの治療では、子宮のほかに卵巣や卵管、リンパ節など子宮の周囲の組織も摘出する「広汎(はん)性子宮全摘術」が選択される。手術に、放射線治療や化学療法を組み合わせることもある。

たった1センチ進んだだけで……

対馬院長は、子宮頸がんの治療を「ほんの数カ月の違いで運命が変わる」と表現。「子宮頸がんは膣の壁を這(は)うようにして進行し、がんがたった1センチ進んだだけで骨盤の底までえぐるように取らなければならなくなります。出血も多く、婦人科の手術の中でもっとも大きな手術です」。

さらに、手術後の生活にも深刻な影響があると語る。「リンパの流れが悪くなることでリンパ浮腫(ふしゅ)を起こして下半身が極端にむくんだり、感染にも弱くなるので、蚊に刺されただけでも下肢全体が腫れたりします。また、広汎性子宮全摘術では、膀胱(ぼうこう)や直腸につながっている神経を切らなければならないので排尿障害や排せつ障害を起こします。尿意を感じない、上手に排便ができないなどといった普段の生活に支障が生じる障害と、一生付き合わなければなりません」。

子宮頸がんは、がんのステージによって手術や治療の内容が大きく変わることをお分かりいただけただろうか。後編では、子宮頸がんの予防ワクチン接種と検診についてお伝えする。

※画像は本文と関係ありません

記事監修: 対馬ルリ子(つしま・るりこ)

現職
対馬ルリ子女性ライフクリニック銀座院長
産婦人科医、医学博士
専門は周産期学、ウィミンズヘルス

経歴
1984年、弘前大学医学部卒業後、東京大学医学部産婦人科学教室助手、都立墨東病院周産期センター産婦人科医長などを経て、2002年にウィミンズ・ウェルネス銀座クリニック(現 対馬ルリ子女性ライフクリニック銀座)を開院、院長を務める。2003年には女性の心と体、社会とのかかわりを総合的に捉え、健康維持を助ける医療(女性外来)をすすめる会「NPO法人 女性医療ネットワーク」を設立。理事長として、全国450名の女性医師・女性医療者と連携して積極的に活動しているほか、女性の生涯にわたる健康のためにさまざまな情報提供、啓発活動を行っている。現在、東京大学医学部大学院非常勤講師(母子保健)。「ウーマンウェルネス研究会 supported by Kao」の代表も務める。