都立汐入公園の敷地内に2017年開園予定の保育所のイメージ図(東京都荒川区提供)

東京都荒川区はこのほど、待機児童の解消に向けて公園の中に保育所を設置することになった。これまでは法規制があり建設が認められなかったが、地域を限定して規制緩和を行う「国家戦略特区」の事業として提案。全国で初めて同取り組みを実現した。

公園内に保育所を作るに至ったきっかけは何か。また、背景にある保育の現状はどうなっているのか。荒川区子育て支援部・保育課長の上田望氏に伺った。

もう公園しか残っていない

同取り組みは、荒川区の南千住地区にある都立汐入公園に0~5歳児を対象にした保育所を設置するというもの。2017年4月に開園予定で、162名の定員を確保できる見込みとしている。そもそもなぜ、公園内に保育所を設置しようと考えたのか。この質問に上田氏は、「もう公園しか残っていなかったんです」と答えてくれた。

同区で保育園を設置するにあたって、最も大きな課題は「用地の確保」だ。区自体が狭い上、中でも南千住地区は再開発によってマンションの建設が相次いだ。さらに街の造成でファミリー世帯の数も増え、保育需要も高まっている。そんな中、都営住宅の1階や小学校の校庭にあるプレハブ校舎、加えて神社の駐車場などを利用してなんとかスペースを確保してきたという。

そこで行き着く先に思いついたのが、公園の利用だった。上田氏は、「広大なスペースのある公園しかない。規制緩和してもらってどうにか利用したいと思い、提案した」と語った。

子どもの声も気にならない

しかし、公園を利用するにあたっては「都市公園法」という壁があった。公園内であっても、図書館など広く一般の人が利用できる施設であれば建設が可能だが、一部の人しか利用できない社会福祉施設については建設が認められていなかったのだ。しかし上田氏はこの点について「最近では在宅育児をしている親や、保育ママが保育所を利用することもある。保育所が提供する一時保育や子育てのお悩み相談会などは一般の人も利用している」と指摘。同区ではこれらの保育所の公共性が理解された結果、規制緩和が認められたと考えているそうだ。

結果として公園内に保育所が設置できることについては、多くのメリットがあるという。1つは広いスペースの中で子どもたちが過ごせることだ。上田氏は、「最近では園庭付きの用地を見つけることが難しくなっている。公園内に施設をつくれば、周りが園庭みたいなものだ」と話した。さらに同保育所は公園内の住宅から離れた場所に建設するため、住民にとって子どもたちの声は気にならなくなる。保育所建設の反対運動が起こる可能性も想定しなくて済むだろう。

既存の施設をフル活用し、定員確保を

先進的な取り組みとして始まった、公園内の保育所設置。しかし保育所不足の状況は依然として変わらない。去年4月時点で同区では、待機児童数を8人にまでおさえている。しかしこの結果を受けて「子どもを保育園に入れたい」という親が同区に転居してきたことなどが要因となり、入園申込者数は今年4月時点で1,344人と前年に比べ84人増加。今年の待機児童数は48人となった。

上田氏は「全体の人口も増えているし、それに比例して就学前児童の人口も増えている。しかしそれ以上に保育所を利用したいという人の数が増えている」と話してくれた。同区では、既存の保育所の建物を新しくしたり、東京都独自の基準で認定されている「認証保育所」を「認可保育所」にしたりするなどして今後も定員数を増やしていくという。

「職員たちは自転車で区を走り回って今も保育所の用地を探しています」と語った上田氏。待機児童解消のための試行錯誤はまだまだ続きそうだ。