九州朝日放送の新作アニメが世界各国と契約成立

そんな中、日本の地域パビリオンから、次々と世界各国と契約を成立させた番組があった。福岡・九州朝日放送10月クールの新作として放送開始し、その後、tvk(テレビ神奈川)や、映像配信サイト・GYAO!などでも放送・配信されている3分間の新作ホラーアニメ『こわぼん』だ。

本放送直前に、『進撃の巨人』のDVDサブライセンスなどを扱うイタリアの出版社・DYNITと、中国本土・香港・台湾・マカオをカバーする中国の「ビリビリ動画」と契約を結び、既にイタリア語、中国語字幕入りで配信開始されている。さらに今回のMIPCOMでは、ラテンアメリカ地域における配信契約も成立させた。

商談が行われている九州朝日放送のブース

『こわぼん』はCGアニメスタジオ・イルカが制作。実写で撮影したものをアニメーション映像に作り上げる「ロトスコープ」と呼ばれる手法で、ジャパンホラーを独特な表現で演出する。九州の背景などもモチーフとして使われ、福岡を拠点に活動するご当地アイドル・LinQ(リンク)のメンバーらも、この手法を用いて出演を果たしている。

MIPCOMで商談を進めていた、九州朝日放送国際事業部の永吉真実氏は「ロトスコープの制作手法に興味を持ってもらっています。『ロトスコープで作られたジャパンホラー』という説明だけで、作品を見る前から買いたいと言われることもあるほどです」と手応えを語る。また、「3分間という手軽な尺が、VOD(ビデオ・オン・デマンド)配信先ではニーズがあるようで、いろいろな国から多くの引き合いを受けている状況です」と説明してくれた。

『こわぼん』の売り先が放送局ではなく、配信事業者であることも注目したい。映像マーケットの世界では、配信事業者との付き合いがここのところ急速に増している様子がみられる。日本ではNetflixやHulu、AmazonといったSVODと呼ばれる定額制の配信サービスが話題に上るようになったばかりだが、マーケットの会場では、すでに主役がテレビ局から配信事業者に移り変わっていると感じる。

アニメ『こわぼん』LinQの出演シーンより
志良ふう子出演の第1話(左)と、高木悠未出演の第4話 (C)KOWABON 2015

世界の配信業者は日本のアニメを重宝

こうしたアニメは地方局にかぎらず、日本が得意な分野だが、このジャンルを取り巻く世界のマーケットの現状はどうなっているのか。アメリカや中国の配信サイトとの取引を先導してきた、テレビ東京アニメ局長の川崎由紀夫氏が、MIPCOM会場で実情を話してくれた。

「欧州では、各国ともに配信事業者が増えていることは事実です。ただし、テレビのデジタル化によるチャンネル増に広告費が追い付かず、いわゆる映像流通の環境が良いとは言えません。そのため、配信業者は保守的なテレビとは差別化したコンテンツを扱い、ブランドを強くしようとしています。この点で、日本のコンテンツも重宝されていると思います。この流れは続くでしょう」

日本の関係者にとっては良い流れだが、一方でこうも語る。

「配信業者間の生き残りをかけた戦いが、し烈を極めています。作品数、ビジネスの面でも急速な伸びを示しています。アニメ業界全体としては、認知度が高い作品以外に、その他の良い作品が日の目を見て、このタイミングで広がりを見せることは良いことだと思っています」

アニメに限らず、これまで紹介したとおり、ドラマやバラエティ、ドキュメンタリーも新たなビジネスチャンスが生まれている。全国的に高視聴率をたたき出す人気番組から、ローカルな逸品の番組まで、世界に売り出されている取引現場の動きに、引き続き注目していきたい。