今年公開の園子温監督作に3作連続(『新宿スワン』『リアル鬼ごっこ』『みんな!エスパーだよ!』)で出演し、注目を集める女優・冨手麻妙(とみて・あみ=21)。2009年にAKB48の第8期研究生オーディションに合格するも同年12月に卒業し、その後はグラビアアイドルも経験しながら小劇場を中心に演技を磨いてきた。今年はさらに映画『闇金ドッグス』(8月1日公開)で、闇金に手を出してしまう地下アイドル"けろリズム"の姫野えりな役に起用されるなど、冨手はいま大きな転機を迎えている。

女優の冨手麻妙 撮影:大塚素久(SYASYA)

彼女の経歴を見ると、気になる点が多い。研究生合格後に1年ほどで卒業し、一時は芸能界から退いたものの、すぐに復帰。園監督の大抜てき、しかも3作連続の出演ともなれば、そこには何かの縁やきっかけがあったはず。さらに、ブログには小中学生時代に女子からの壮絶ないじめを受けていたことが書かれている。

アイドル時代から現在までをインタビューで振り返る中、冨手は「黒歴史」などのフレーズでこちらを笑わせてくれる。挫折や下積み時代を包み隠さず話す表情に悲壮感はなく、その笑顔の奥には"母と名前"に支えられた"強さ"が秘められていた。

地下アイドルのリアルすぎる描写

――『闇金ドッグス』は過去の経歴から見ても、ピッタリの役柄でした。作品をご覧になっていかがでしたか。

最初に台本を読んだ時から、この作品自体に深い興味を持ってしまいました。というのも、「闇金」や「裏社会」がテーマで、私のやらせていただいた役が地下アイドル。アイドルを描いた作品は、きれいに描かれることが多いと思いますが、この作品は逆に汚い部分というか、普段は見られないようなところまで描かれていたので、一時期アイドルを経験した身としては興味を持ってしまいました。

――アイドルを経験したからこそ、リアルと感じたシーンやセリフなどはありましたか。

やっぱり、握手会のシーンだったり、たくさんCDを買ってくれた人に対する接し方とか。それはすごく分かります。アイドルも「いっぱい買ってくれてありがとう」という気持ちで必死なんですよね。劇中で、私が演じたえりながファンのよしおくんにCD100枚買ってもらえて、舞い上がって抱きしめてしまうシーンがありましたが、多少はオーバーな演出かもしれませんが、実際そういう気持ちになると思います。どこでリサーチしたんだろうと不思議に思うくらいリアルな台本でした。

(C)2015「闇金ドッグス」製作委員会

――現場では「タイムスリップした感覚」だったそうですね。それは当時のつらかったことを思い出したとか?

好きなことだったのでつらくはありませんでしたが、ただ、すごく厳しい世界というのは身をもって感じていました。今回は「借金」がテーマになっていましたけど、それぐらい背負う物や失うものが大きくないと、この世界ではのし上がっていけないというのは、当時から感じていました。同世代の女の子がたくさんいる中で、自分が一番になるにはちょっと頭を使うことも必要なのかもしれません。

上からの指導や同期との競争とか、いろんなものをひっくるめて、すごく厳しい世界。今回はそれが借金でした。貧しい生活でもアイドルを続けたいというのは、当時の自分も思っていたものなので、今回は役作りもほとんど考えることなく、まさにタイムスリップした感覚で演じることができたと思います。

AKB48研究生時代の挫折は財産

――そこまでの思い入れがあったアイドルという仕事。AKB48研究生を辞めたのは、どういう理由だったのでしょうか。

一斉に辞めさせられたんです。

――そういえば、8期って…。

そう、誰も残っていません。黒歴史なんですよ(笑)。