昨年後半から大幅に上昇していた中国株が、6月中旬を境に急落
昨年後半から大幅に上昇していた中国株が、6月中旬を境に急落に転じている。きっかけは当局が信用取引規制を強化したことだった。その後の株価の下落ぶりをみて、当局は、金融緩和、政府系ファンドや年金基金による株購入、空売り規制など矢継ぎ早に株価対策を打ち出した。また、証券会社やファンドによる買い出動、新規公開(IPO)の停止など、業界も株価支援に動いたが、いまのところ株価が底を打つ気配はみえない。
上海総合指数のチャートをみると、昨年後半からの株価の動きは、2006年からリーマン・ショックのあった2008年にかけてのそれと瓜二つだ。同じことが繰り返されるとすると、株価が鎌首を持ち上げた昨秋ごろの2000~2500まで下落するかもしれない。そうであれば、今(7月8日終値3507.19)からさらに30~40%の下落が待っていることになる。株価が維持不可能な水準まで上昇し、つまりバブルが発生し、それが破裂したということなのだろうか。
そこまで悲観的になる必要はない!?
ただ、そこまで悲観的になる必要はないかもしれない。確かに、昨年10月以降の中国株の上昇ピッチはあまりに急だった。日米の株価の動きと比べれば、その差は歴然だ。一方で、株価のバリュエーション(評価)面ではそれほど割高なわけではない。
一株当たりの利益に対する株価の倍率、いわゆる株価収益率(PER)をみると、上海総合指数は足もとで約18倍。日経平均は約22倍、米S&P500は約18倍だ。上海総合指数が5000を超えていた6月中旬を別として、現在は日米株価と比べてとりわけ割高になっているわけではない。ちなみに、平成バブルのピークで日経平均のPERは70倍を超えていたし、IT株バブルのピークでの米国株のPERは40倍を超えていたようだ。
経済規模(GDP)に対する株式時価総額の比率をみると、中国株が約60%であり、日本株の123%や米国株の138%を大きく下回っている(Bloombergデータ)。振り返ってみると、2006年~2008年の中国株の動きは、高高度飛行を続ける日米株に急速にキャッチアップしたものの、サブプライムローン問題に端を発したリーマン・ショックに巻き込まれて日米株と同様に大幅に下落したと説明できそうだ。今回はキャッチアップの道半ばでつまずいた格好だ。中国株が先導する形で日米株が大きく下落を続ける姿は想像し難い。なお、平成バブルのピークで日本株の時価総額はGDP比140%超だった。
日米株と中国株を同じ尺度で比較することの妥当性は?
ここで一つ大きな問題がある。日米株と中国株を同じ尺度で比較することの妥当性だ。前者の市場は高い透明性を持ち、公正かつ自由な競争のもとで健全な価格形成がなされている(やや疑問が残る部分もあるが)。それに対して、中国株の市場は不透明であり、当局の介入によって価格形成が歪められている可能性もある。また、バリュエーションのベースとなる経済データや企業利益などもどこまで信用していいのか判然としない。少なくとも、外国人投資家はそう考えているだろう。
幸いにして、中国株における外国人投資家の保有比率は低く、中国株の下落によって直接損失を被る度合いは限られているだろう。そうであれば、中国株の下落は、心理面を別とすれば、各国の株式市場に伝播する類のものではないかもしれない。中国株が再び上昇しなくても、どこかの水準で落ち着きさえすれば、世界の金融市場にとって中立の要因、マーケットニュートラルになるのではないか。
もっとも、中国株の大幅な下落が、逆資産効果を通じて中国国内の個人消費や企業動向に与える影響はこれとは別であり、それはこれからジワジワと現れてくるかもしれない。
執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)
マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフ・アナリスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフ・アナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。2015年7月31日にWEBセミナー「マーケットリサーチ・レーダー:8月の投資戦略の探求」を開催する。詳細はこちら