名古屋メシのひとつに数えられるあんかけスパゲティ。名前の通り、中華料理や和食の"あん"のようにとろみのあるソースが最大の特徴。こってり&ピリ辛ソースに加えて、ゆでた太麺をラードで炒めることで独特の触感と食べ応えを出す。この通称"あんかけスパ"の元祖「ヨコイ」が全国進出しようとしている。
こってり・ピリ辛・極太のガテン系スパ
あんかけスパは、昭和30年代に「スパゲッティ・ハウス ヨコイ」の創業者である横井博さんが考案し、その後、名古屋中に広まった。今では名古屋市内のあちこちに専門店が見つかるほど普及している。
いわゆるあんかけソースは、実はミートソースの一種だ。肉や野菜を裏ごしして具の形状がなくなるまでじっくり煮込み、さらにでんぷんでとろみをつける。直径2.2mmの極太麺を使い、ゆでた後にラードで炒めるのもあんかけ独特。表面は固めで中はもちっとした食感は"逆アルデンテ"と称される。
ソースや麺の基本的な調理法だけでなく、トッピングもヨコイ流が標準。ヨコイのオリジナルメニューにはハム主体の「ミラネーゼ(ミラノ風)」と野菜主体の「カントリー」があるが、それを組み合わせた「ミラカン」(サラダ付きで950円)は、あんかけスパを出すほとんどの店で採用されている定番だ。
男性ファンが多いのもあんかけスパの特徴のひとつ。ヘビーな食べ応えは女性よりもむしろ男性にウケ、ヨコイをはじめとする人気店のランチタイムには、スーツ姿のビジネスマンが店内を埋める。
1号店には「鉄板」ミラカンが!
このあんかけスパの元祖でありスタンダードであるヨコイは、名古屋市中区に本店の住吉店と錦店の2店舗展開だったが、このほど本格的なチェーン展開をスタートさせた。愛知県豊橋市に本社を置く「甲羅」とのタッグで、フランチャイズチェーン(以下、FC)1号店「ヨコイ 豊橋藤沢店」(豊橋市)を去る6月16日にオープンしたのだ。
店舗は郊外型イタリアンレストラン風の明るい店構え。本家・ヨコイの2店舗はいずれもオフィス街のビルインで30~40席と小ぢんまりしているが、 豊橋藤沢店はかなりあか抜けた雰囲気である。
目玉はもちろん「ミラカン」(880円)。その他のメニューバリエーションもヨコイに準じているが、違いは皿の替わりに「鉄板」を選べること。鉄板皿にとき卵を流し込みその上にスパゲティを盛った「鉄板スパ」はこれまた名古屋メシの一種で、あんかけ×鉄板はその合わせ技だ。さらに、名古屋グルメらしくエビフライを添えた「鉄板エビネーズ」(1,220円)も用意されている。
全国への鍵は女子ウケ?
ヨコイは近年、他地域の百貨店の催事などでの出店も多く、ソースはその際に使っているものをFC店でも使用している。基本的な味つけは本店のままだが、ずっしり重量感があるオリジナルのテイストは女性からは「ちょっと苦手」という声もしばしば耳にする。今後の全国展開に向けては、女子ウケや親しみやすさを重視してややマイルドにシフトするのか、あくまでオリジナルを基準にしていくのか、かねてよりのファンからすればマニアックに注目していきたいところだ。
FC展開については、ヨコイと甲羅が共同出資した「あんかけ本舗」が本部機能を果たしていく。具体的な出店計画についてはまだ未定だが、かに料理の「甲羅」や鍋料理の「赤から」など170店舗以上のFC店を展開する甲羅のノウハウを活かして、遠くない将来には愛知県外での出店も進められることは間違いない。
あんかけスパ専門店のチェーンは「カレーハウスCoCo壱番屋」の「壱番屋」が「パスタ・デ・ココ」を2003年から展開しているが、約30店舗のうち大半は名古屋市内と愛知県内で東京では1店舗のみにとどまっている。個性的すぎるがゆえに名古屋圏以外にはなかなか広まらなかったあんかけスパ。本家本元がFC展開に乗り出したことで全国区へ一気に躍り出るか、これからが楽しみだ。
※記事中の情報・価格は2015年6月取材時のもの。価格は税込
筆者プロフィール: 大竹敏之(おおたけとしゆき)
名古屋在住のフリーライター。雑誌、新聞、Webなど幅広い媒体で名古屋情報を発信。Webガイドサイト「オールアバウト」では名古屋ガイドを務める。名古屋メシ関連の著作を数多く出版。『名古屋の喫茶店』『名古屋の居酒屋』『名古屋メン』『続・名古屋の喫茶店』(リベラル社)は自腹リサーチをコンセプトにしてご当地ロングセラーに。10月上旬にはご当地グルメコミックエッセイ『まんぷく名古屋』(KADOKAWA、森下えみこ著)に案内人として登場。