4月30日放送の『京都人情捜査ファイル』を最後に、全22作がそろった春ドラマ。「視聴率男のツートップ」と言われる木村拓哉と堺雅人の主演作など注目作も多く、話題を集めている。

初回放送が終わった中、視聴率としては木村拓哉が記憶を失った父親役を演じる『アイムホーム』(16.7%)、佐藤健が坊主頭で料理修業に挑む『天皇の料理番』(15.1%)、堺雅人がセリフを抑え聞き役に回る『Dr.倫太郎』(13.9%)、相葉雅紀の月9ミステリー『ようこそ、わが家へ』(13.0%)、多部未華子のコメディエンヌぶりを生かした『ドS刑事』(12.7%)が好調なスタートを切った。

しかし当然ながら、ドラマの面白さと視聴率はあくまで別問題。今回もドラマ解説者の木村隆志が、俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視!」したガチンコで、今クールの傾向とオススメ作品を探っていきます。

春ドラマの主な傾向は、[1]強力な原作で勝負! [2]男優主演ドラマの巻き返し [3]ヒロインたちはますます強く [4]病んでいる大人たちの物語 [5]枠をめぐる戦略と挑戦 の5つ。

左から『天皇の料理番』の佐藤健、『Dr.倫太郎』の堺雅人、『アイムホーム』の上戸彩

傾向[1] 強力な原作で勝負!

『半沢直樹』などの原作者・池井戸潤の『ようこそ、わが家へ』、文化庁メディア芸術祭大賞作のマンガ『アイムホーム』、直木賞作家・杉森久英氏の名作『天皇の料理番』、熱狂的なファンを持つ横山秀夫のベストセラー『64』など、強力な原作のドラマが目立つ。

プロデューサー目線で見たら、「企画会議に一発で通りそうなネタ」だが、脚本家と演出家にしてみたら、これほど大変なことはない。「原作の良さを損なわないか」「どこをふくらませ、どこを削るか」「キャラクターのトーンをどの程度に設定するか」など悩ましいことだらけ。もともとハードルが高いだけに「映像化失敗」と言われがちなのだ。

ただ、前述した4作は、「映像化しなければ表現できない」心の機微や映像美などを絡めて、今のところ見どころ十分の作品に仕上げている。

傾向[2] 男優主演ドラマの巻き返し

このところ女優主演のドラマが主流になっていたが、今クールはひさびさに男優主演のドラマが巻き返しの兆しを見せている。しかも、相葉雅紀、堺雅人、阿部サダヲ、木村拓哉、斎藤工、山下智久、佐藤健、TAKAHIROらタイプの異なる人気者がズラリ。

さらに、知的障がい者役の山下智久を除いて、"フツーの人"を描いているのが興味深いところだ。その象徴が木村拓哉で、かつてならヒーローやスーパーマンを演じていたが、今回は悪い男やフツーの男など、別人のような姿を見せている。

ただ、それぞれが問題を抱えながらも、全員「イイやつ」であることは共通していることから、制作サイドは「ダークな主人公は支持されない」という見方をしているのかもしれない。

傾向[3] ヒロインたちはますます強く

一方、今クールの女優主演ドラマを見ると、明らかに"強い女"のキャラが目立つ。仲間由紀恵が高飛車な芸能マネージャーを演じる『美女と男子』、木村文乃がたくましいシングルマザーを演じる『マザー・ゲーム』、渡辺麻友が空気を読まない書店員を演じる『戦う! 書店ガール』、大島優子が暴力団を叩き潰す刑事を演じる『ヤメゴク』、多部未華子が言葉攻めで悪人を懲らしめる『ドS刑事』とキャラの内容も多彩だ。

昨年度No.1視聴率の『ドクターX』大門未知子が象徴するように、現在の視聴者がドラマで見たいのは強い女。男を手なずけたり、叩きのめしたりすることはあっても、か弱い様子が描かれるシーンはほとんどない。

傾向[4] 病んでいる大人たちの物語

週の真ん中である水曜に『Dr.倫太郎』『心がポキッとね』という心が病んでいる人のドラマが並んだ。どちらも登場人物たちに、誰もが陥るかもしれない「悩み、コンプレックス、トラウマ」を抱かせ、解消への道筋を描いている。心が病んでいるという点では、『ヤメゴク』のヒロインや、『マザー・ゲーム』のママたちも同じかもしれない。

平日の真ん中にこうした作品が増えているのは、「病んでいる人の再生や、暖かい周囲の人々を描いて、悩み多き現代人を癒そう」としているから。その証拠に、『ヤメゴク』以外はハードな描写がほとんどなく、「必要以上に重い気持ちにならなくて済む」ように演出されている。これは同じ水曜10時で、腹黒バトルが続いた『ファーストクラス』が支持されなかったことが影響しているのかもしれない。

傾向[5] 枠をめぐる戦略と挑戦

今春、ドラマの放送時間に大きな動きが見られた。まず59年間続いたTBSの月曜20時枠、『踊る大捜査線』『ナースのお仕事』らを生んだフジテレビの火曜21時枠が終了。一方、日本テレビが日曜22時30分に、好評の『有吉反省会』を移動させてまで新枠を作り、フジテレビはかつて『ライアーゲーム』『SP』らを生んだ土曜23時台の枠を復活させた。

今回の動きから見て取れるのは、「浅い時間帯のドラマは厳しい」「より深い時間帯で若い層をつかみたい」という思惑。アラフォー以上の人からすれば、かつては19時台、20時台に「親子そろって見られる」「学生向け」のドラマがたくさんあっただけに寂しいところ。バラエティ番組が好きではない子どもたちは、スマホで遊ぶしかないのか……とも感じてしまう。


これらの傾向を踏まえつつ、今クールのオススメは、深夜帯に優しさと切なさがあふれるラブストーリー『恋愛時代』。原作が亡き名脚本家・野沢尚さんの恋愛小説だけに人物造形がしっかりしていて、他のヒロインとは異なり気が強いだけでなく、揺れ動く女心を丁寧に描いている。

さらに、木村拓哉のさまざまな一面を引き出したミステリー『アイムホーム』、遊びを一切排除してハードな世界観を貫く『64』、鉄板の布陣で臨む『Dr.倫太郎』『天皇の料理番』、ドキュメンタリー風の映像がリアルな『She』も見応えがあった。各局とも無料見逃し配信やオンデマンドで見られるため、チェックしてみてはいかがだろうか。

一方、これからの巻き返しに期待したいのは、火曜22時放送の3本。ママ友バトルや悩みの意外性に欠ける『マザー・ゲーム』、書店員の活躍より年の差ギャップに偏りがちな『戦う! 書店ガール』、ヒロインのキャラとセリフにひとひねり欲しい『美女と男子』。ドラマ好きにとって3作が同じ時間帯で放送されるのは悲しいことなのだが、今クールは悪い意味で「どれを選べばいいかわからない……」という人が多い気がする。

【おすすめベスト5作】
No.1『恋愛時代』(日本テレビ系 木曜23時59分)
No.2『アイムホーム』(テレビ朝日系 木曜21時)
No.3『64』(NHK 土曜22時)
No.4『天皇の料理番』(TBS系 日曜21時)
No.5『Dr.倫太郎』(日本テレビ系 水曜22時)

■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。