若き赤ひげ先生アブネビさんは、動物のお医者さん。アルジェリアの公用語であるアラビア語の他に、フランス語、スペイン語、ベルベル語(北アフリカ固有の言語)、英語も話せる頼もしい存在。首都アルジェ市にあるクリニックは、明るく清潔で、彼の人柄が表れているようです。

ジャミル・アブネビさん/29歳/アルジェリア・アルジェ在住/獣医

■これまでのキャリアの経緯と今の仕事について教えてください

獣医学科を卒業後、最初に就いたのはフードセイフティとコンサルタントの仕事でした。今とは全く違う分野ですが。その後、2年間フランスへ留学し、アルジェリアに戻ってからクリニックを始めました。

獣医になろうと思ったのは、やはり動物と関わる仕事をしたいと思ったから。子ども時代を農場で過ごしたので、いつも周りに動物がいる暮らしでした。ですから、動物たちを診る仕事に就くのは、自然な成り行きでしょう。私は獣医として開業しましたが、研究も続けています。私の両親は2人とも医師なのですが、病気の研究とか患者さんを診るとか、そういうことを生きがいとする血筋の家系なのでしょうね。

■開業後の収入はいかがですか?

自分のクリニックを持って2年になりますが、今の暮らしに満足です。大きな収益はないけれど、儲かりたくて開業したわけではないですから。お金持ちになりたかったら、他の仕事を選んでいますよ。

■今の仕事で気に入っているところは?

病気などを患っている動物と、その飼い主を助けられることでしょうか。私の仕事は、獣医というだけでなく、公衆衛生やアニマルケアの指導など、多岐にわたっています。いろんなアドバイスを飼い主にできるのは、充実感がありますね。

また、自分のクリニックなので、マイペースで仕事できるのが良いです。ここで後輩の指導はしますが、基本的に一人なので人間関係に煩わされることもない。あと、忙しすぎないことでしょうか。患者である動物と飼い主の待ち時間が長くなるのは、私自身が診察に集中できないだけでなく、動物にも飼い主にも負担になりますから。

この日は、オス猫の去勢手術

■逆に、大変なことは何ですか?

診察した動物の飼い主が、私のアドバイスを聞いてくれないときです。せっかく的確な指示を出しても、理解されなかったり無視されたり。結果的に、ペットにもその飼い主にも不利益になるのが分かっているのに、ネグレクトする。そういうのを目の当たりにすると、とても残念な気持ちでいっぱいになります。

■クリニックでは、主にどんな動物を診るのですか? 最近、犬をよく見かけますが。

本来イスラム教では犬は好まれない動物ですが、確かにここ数年、アルジェリアでもペットとして犬を飼う人が増えていますね。私のクリニックでも、よく診ます。私の患者としては、犬や猫の他に、鳥が多いです。アルジェリア人は、小鳥のさえずりを聞くのがとても好きなんですよ。よく商店などの店先に、四角い鳥かごに入った小さな鳥がいるでしょう?

■日本や日本人へのイメージはどんなものですか?

子どもの時、空手を習っていました。アルジェリア人の先生でしたが、空手を通じて学んだものは多いです。日本人は真面目で勤勉、規律正しく、互助の精神にあふれている、そんな印象です。今は、日本製のパソコンを使っている以外に日本との接点はありませんが、「オッス」や「イチ、ニ、サン」など、空手の掛け声は今でも覚えています。

■ちなみに、今日のランチは?

私はランチを食べないんですよ。時間がないのが最大の理由ですけど、満腹になって午後に眠くなるのが嫌なんです。お腹が空いたら、果物を食べます。かわりに、夕食は家族とゆっくり食べます。特に、クスクス。アルジェリアの国民食的な料理であり、僕の大好物でもあります。

蒸したクスクスの上に、野菜と肉の煮込みをかけて食べる

■休日の過ごし方について教えて下さい

アルジェリアでは、夏休みやラマダンなどに長期で外国へ出る人が多いのですが、なるべくクリニックを留守にしないよう、私は短期の休みをとるようにしています。緊急時に、素早く対応したいですから。また、旅先からでもいち早く的確な指示が出せるようにと、いつも心がけています。できそうにないときは、あらかじめ他の獣医に引き継いでから出発します。

■将来への展望は?

アルジェリアの獣医療に貢献することですね。例えば獣医師会など、この国にはまだプロフェッショナルな職業の組織がありません。また、獣医が農業省との連携を計れるようにするとか、やるべきことは山積みです。獣医療環境充実化の一助になれたらと思っています。個人的には、旅をして見聞を広めたいです。さまざまな国のいろいろな人と知り合って、情報交換したり、助け合ったり。そうやって、自分の人生を懸命に生きるのみです。