用意の決戦策

村山慈明七段

村山七段といえばファンの間では「序盤は村山に聞け」という言葉が有名だ。これは故・村山聖九段が詰みに強かったことから、「終盤は村山に聞け」と言われていたことにかけている。その研究家が選んだ作戦は「相横歩取り」。横歩取りから、後手も負けじと歩を取るところから始まる戦法だ。早々に大駒が交換になり、いきなり終盤戦になることも多い。

図2:18手目△7六飛まで

図3:20手目△7四飛まで

図2はちょうど後手が歩を取ったところ。先手は金当たりになっているので、何かしらそれを防ぐ必要がある。実戦は図2から▲7七歩△7四飛と進んで図3。ponanzaは練習では、金の前に歩を打って飛車から守る傾向にあった。しかしこれは左側に壁を作る意味もあり、激しい戦いになったときに玉の逃げ道がないことが致命的な欠陥になる恐れがある。対して後手は飛車を引いてぶつければ、飛車交換で激しい展開に持ち込める。これが村山七段の描いていたシナリオだった。

この進行は相横歩取りでは古い定跡にあたり、先手が損をしているとされ廃れた順でもある。「飛車角総交換になるような激しい順では、勝率も悪くなかった」とは、記者会見での村山七段の言葉だ。先手が選びにくいはずの定跡に飛び込んでくれるのだから、これを利用しない手はない。村山七段が対策を相横歩取りに絞った理由もうなずける。ところが、この期待は最悪の形で裏切られる。

村山七段の不運

改めて図3:20手目△7四飛まで

ponanzaは図3で飛車を取らずに▲3六飛と引いた。これが「練習ではほぼ飛車を取ってきていた」という村山七段の予定を狂わせた一着。方針は飛車を取る手とは反対で、落ち着いた流れにしようとしている。「ほとんど指されたことがなく、研究していない形になってしまった」と村山七段。ponanzaの選択は結果的に相手の研究を外して「好判断」になったというわけだ。山本氏は局後、「ゆっくりした展開になってホッとした」と述べている。

村山七段の昼食は幕の内弁当「あやめ」

対局再開後、△8四歩を着手する村山七段

村山七段にとってはこの時点で事前研究のアドバンテージが消え、うまみのない状況になってしまった。練習でほとんど指されない展開を本番で引いたことは不運と言えるし、そこが一発勝負の怖さなのだとも言える。

控室の様子。奥は現地レポート用の撮影場所になっている

継ぎ盤で検討する金井恒太五段(右)観戦記を担当する。左には竹内雄悟四段の姿も