生活習慣病を予防する可能性のある新規化合物を研究するフレグライド研究会はこのほど、「8年熟成恒順香醋」から肥満などの予防効果が期待される新成分「FRAGLIDE1(フレグライド1)」を発見したことに関する記者発表会を開催した。

「恒順香醋 8年熟成」(左: 150ml・各税別1,800円 / 右: 500ml・各税別4,000円)

必須アミノ酸8種類を含む17種類のアミノ酸を含有

香醋(こうず)とは、もち米を原料に製造された中国の「黒酢」のこと。江蘇省鎮江市の名産品であり、中国国内の80%以上の香醋を江蘇恒順社が生産・販売しているとのこと。

江蘇恒順社の香醋の中でも最高級とされているのが、8年間熟成させて作ったという「8年熟成恒順香醋」。その特殊な製法は、中国の無形文化財に指定されているほど。さらに、生産量も鎮江市で製造される香醋年間総生産量の0.2~0.3%とごくわずかであるため、中国国内では市販されておらず、政府などの御用達の品として取り扱われているという。

8年熟成恒順香醋は、体内ではつくることができない必須アミノ酸8種類を含む17種類のアミノ酸を含有。その中でも、体内での消化・吸収に優れるといわれる遊離アミノ酸は、総アミノ酸量の30%以上を占めている。

そして、江蘇恒順社の日本総代理店および8年熟成恒順香醋の独占販売企業として、2001年に設立されたのが日本恒順だ。同社は日本国内で「恒順香醋 8年熟成」(10ml×14本・税別1,800円 / 150ml・税別1,800円 / 500ml・税別4,000円)を販売する傍ら、同商品に含まれる有用成分の研究を行ってきたという。

日本恒順代表取締役社長・桝谷文武氏

その過程で、北陸先端科学技術大学院大学 マテリアルサイエンス研究科の辻野義雄教授らの研究グループが、肥満などの生活習慣病を予防する可能性のある新規化合物を発見。香醋(fragrance vinegar)の「FRAG」とButenolide化合物の「LIDE」、今後も同様の機能性物質が見つかることを期待した「1」を組み合わせて、「FRAGLIDE1(フレグライド ワン)」と名付けたとのこと。

そして今回、辻野教授ら5名が発起人となってフレグライド研究会が発足した。日本恒順は同研究会の代表企業を務める。

日本恒順代表取締役社長・桝谷文武氏は、「私はこの15年間、8年熟成恒順香醋を毎日飲んでいます。職業柄、1日5回ほど会食をしていますが、糖尿病にもならずに健康です」とコメント。そして、「肥満で苦しむ人は日本だけでも約2,000万人いるといわれますが、その方々が本当に欲しいと思っているものを届けたいと思って研究してきました。今回フレグライド1が発見されたことで、これまでの"見つけるため"の研究から、砂糖や塩のように"供給するため"の研究に転換していきたいと考えています」と語った。

8年熟成恒順香醋にしか含まれない新成分「フレグライド1」とは?

フレグライド研究会代表を務める北陸先端科学技術大学院大学 マテリアルサイエンス研究科の辻野義雄教授

発表会では、同研究会代表を務める辻野教授が、フレグライド1の細胞実験(2010年)と動物実験(2014年)の成果について発表した。

細胞実験の結果、フレグライド1が「PPARγ」を活性化させることを確認。PPARγとは、脂肪組織の細胞核内に多く存在するタンパク質のこと。これが活性化すると、インスリンの抵抗性(インスリンが正常に働かない状態)の改善を促し、肥大化した脂肪細胞を減少させ、代謝しやすい小型の脂肪細胞の増加を誘導するという。「この働きにより、メタボリック症候群、動脈硬化、高脂血症などの生活習慣病の予防や改善が期待できます」と辻野教授。

さらにフレグライド1のPPARγの活性化作用により、「白色脂肪細胞」を「褐色脂肪細胞」へ変化させる効果が示唆されたとしている。

白色脂肪細胞は皮下や内臓に多く見られ、体内では消費できなかったカロリーを脂肪として蓄積するとのこと。一方で褐色脂肪細胞は、鎖骨、肩甲骨、胸まわりに多く分布し、脂肪を燃焼させてエネルギーに変換させる働きを持つとされている。しかし褐色細胞の数は、新生児の頃を最多として成長とともに徐々に減少し、成人する頃には4割程度しか残らないという。

フレグライド1は脂肪代謝に関わる「PPARγ」を活性化

フレグライド1のPPARγの活性化作用により、「白色脂肪細胞」を「褐色脂肪細胞」に変化させる効果が示唆された

褐色脂肪細胞には、脂肪を燃焼させる"工場"としての役割を持つミトコンドリアが数多く存在し、それを動かしているのが、タンパク質「UCP-1」だという。フレグライド1は、このUCP-1の発現量を増やす働きをするため、脂肪をより効率よく燃やすことが期待できるとのこと。

体重や内臓脂肪の増加などを抑制

3カ月にわたって実施した動物実験では、高脂肪食を与えたマウスを「高脂肪食・フレグライド1投与群(以下フレグライド1投与群)」と「高脂肪食・フレグライド1非投与群(以下コントロール群)」に分け、通常の食事を与えた「ノーマル群」とともに比較した。なおフレグライド1の投与量は、人が食品として摂取する場合に非現実的にならないように配慮し、1日に1kgあたり0.037~10μgと設定した。

その結果、フレグライド1投与群は最小投与量0.037μgで、「体重変化」「内臓脂肪量」「血中アディポネクチン濃度」「レプチンの分泌量」「インスリンの分泌量」において、良好な結果が得られたという。

「体重変化」(下から: 「ノーマル群」「フレグライド1投与群」「コントロール群」)

左から: 「そけい部皮下脂肪」「精巣周囲脂肪」「腎臓周囲脂肪」「腸間膜脂肪」(各項目の棒グラフ左から: 「ノーマル群」「コントロール群」「フレグライド1投与群」)

まず体重に着目すると、コントロール群は実験期間中に継続して体重の増加が見られたのに対し、フレグライド1投与群は増加を約26%抑えることができた。

また、フレグライド1投与群はコントロール群と比べて、そけい部の皮下脂肪の増加が約35%抑制されていた。加えて精巣周囲脂肪、腎臓周囲脂肪、腸間膜脂肪といった内臓脂肪の増加も、平均で約15%抑えられていた。

さらに、脂肪細胞から分泌されるタンパク質である「アディポネクチン」の濃度にも変化が見られた。アディポネクチンは、細胞内の脂肪を減らしてインスリン受容体の感受性を上げる作用のほか、動脈硬化抑制、抗炎症などの作用が報告されている。その血中濃度を比較したところ、コントロール群では血中濃度が低下したのに対し、フレグライド1投与群では大きな減少は見られなかった上に、投与量の増加に比例して分泌量が増加することがわかった。

続いて、レプチンの分泌量を比較。レプチンは肥満の抑制や体重増加の制御の役割を果たすペプチドホルモンだが、過剰分泌すると血圧を上昇させるといわれている。実験の結果、フレグライド1投与群で過剰な分泌は見られず、その副作用は起こらないと判断できるとのこと。

最後に、血糖値の上昇を抑える働きを持つという「インスリン」の分泌量に異常がないかどうかを調べた。結果として、コントロール群では過剰分泌が確認されたのに対し、フレグライド1投与群では分泌量が下がり、あわせて血糖値の上昇を抑えることが示唆された。

なお、投与量を変えて毒性の有無についても調査を行ったところ、1日の最大投与量を1kgあたり10μgにした群でも、副作用などの問題は見られなかったとしている。

同研究結果は、3月28日に岡山大学・津島キャンパスにて開催する「日本農芸化学会2015年度大会」で発表予定。辻野教授は、「フレグライド1は、まだ実験や効果検証が始まったばかり」としながら、今後について「引き続き肥満や糖尿病について実験で効果を検証し、臨床実験では有効性や安全性を検証していく予定です。将来的には、健康食品や機能性食品、医薬品などにも展開できればと思っております」と期待を込めて話した。