スポーツ飲料ブランドでおなじみの「アクエリアス」が、アクティブな育児=略して“アク育”をサポートする活動をこの春に開始した。“アク育”とは「親子でカラダを動かし、こどもをアクティブに育てよう!という趣旨で、「アクエリアス」とともに“アク育”をサポートするアクティブ育児アンバサダーとして、教育評論家の尾木ママさんが就任している。3月20日には東京・赤坂サカスで行われたイベント「ママサカス」内にて、“アク育パーク supported by AQUARIUS”が設置された。多くの来場者が“アク育”を実際に体験する中、傍でその様子を見守った教育評論家の尾木直樹氏(尾木ママ)に、“アク育”の重要性について話を伺った。
――今日、実際に“アク育パーク supported by AQUARIUS”をご覧になられて、どのような感想を持たれましたか?
今回、ママサカス内の敷地に本物の芝を敷き詰め、フラフープやケンケンパの縄、ボールなど、シンプルな遊び道具を置いただけなのですが、見ていると子どもたちは想像していたのとはまったく違う遊び方をするんですね。例えば、一番人気だったサンドバッグ型のバルーン。意外や意外に子どもたちはみんなあれに乗るんですね。時にはパパやママも一緒に乗っていたり。だから子どもっていうのは非常に発想力が豊かで、自分で創意工夫して大人では考えつかない方法で遊ぶんだなぁと。改めて子どもの面白さを発見しました。
子どもというのは本当に先入観なしに遊びますよね。僕なんかのほうがむしろ先入観があって、なんでそんな遊び方するんだよ? 壊れるだろうって思うんですけど。子どもにとっては壊れることはなんともないことなんだなと。そこにある子どもの可能性に気付かされました。
僕は子どもの教育を専門でずっと仕事をしてきているのに、子どもから学んでいるわけです。子どもって7~8割の子がちゃんとしたルールじゃないよってね。人工芝じゃない土の芝生の上で安全だし、伸び伸びと思いっきり遊べるので、やっぱり能力や子供らしさが引き出されているなと感じました。それをお母さんたちにも子どもと一緒に体験しながら味わってほしいんです。親子で一緒に楽しく遊んだり、運動したり、アクティブな毎日を送ることで、カラダを動かすことを楽しんでもらうことが“アク育”のテーマで、それが芝生をちょっと敷いただけでも引き出されるんだなと。そういったことを垣間見ることができました。
――今、“アク育”が求められているのにはどうした背景があるのでしょうか?
昨今、子どもたちの運動不足が問題となっています。2013年に実施した文科省のデータによれば、小学5年生の女子の約4人にひとりが体育の時間以外で1週間のうちで身体を動かしている時間はトータルで30分以下なんです。
――例えば10年前や20年前の子どもたちに比べると、運動量が減っているということなのでしょうか?
相当減ってきています。万歩計で歩数を調査してみると、今の子どもたちはだいたい1日2万3000歩ぐらい歩くんですが、1万歩を切るぐらいの子も多いんです。でも、歩数だけに特化して話してしまうと、例えば、図書室で本ばかり読んでいる子はどうしても少なくなってしまうので、それが100%いけないとは言えないのが少し難しいところです。
“アク育”で大事なのは、“親子で一緒にカラダを動かす”ということなので、そこで実際に運動をするというのも大事ですが、家事や家族関係の部分で活動的に動くというのもひとつですので、幅広く考えてもらえればと思います。例えば台所仕事や、ちょっと拭き掃除をするだけでもいい運動になりますよ。
――子どもたちの成長にとって、どうして“アク育”が大事なんでしょうか?
子どもたちにとって大切なのは原体験なんです。僕はいつも8つの体験って言っているんですけど。火の体験、石の体験、水の体験、木の体験、土の体験、動物の体験、草の体験、ゼロの体験ですね。
例えば今日の“アク育”パークだと土の体験と草の体験になるんです。土の中に小さい虫を見つけたり、芝の香りを感じたり。もっと大きな野原へ行けば、草笛を吹いたり、笹船を作って流したりとか。ゼロ体験というのは、極限状況の真っ暗闇の中で満天の空を眺めて、人間の存在の小ささや、自然の凄さを感じることです。運動不足の解消というのもありますけど、こういう原体験を通して学ぶことが大事なんです。そしてそれを親と一緒にやるというのが“アク育”のポイントなんです。
というのも、例えば子どもが躓いてしまったときに、特に“アク育”では身体を動かしますから躓くことがいっぱいあって、そういうときに親が見本を見せてあげることや、アドバイスをしたりすることで、子どもが失敗を克服する達成感を得られることが重要なんです。そして、そういった達成感や成功体験が自己肯定につながり、成長する力の土台になるんですよ。すると、そのうちに子どもは自発的に工夫するようになり、創造力や向上心に発展していきます。これを“レジリエンス”と言いますが、要は"折れない心"です。一度失敗しても、「こないだパパとやって工夫してやってみたらできたんだからこの問題だってできるはずだ」というレジリエンスが非常に鍛えられてくるんです。
人生、死ぬまでたくさん心が折れるような場面があるわけですが、そこでいちいちくじけていてはダメなんです。ですから、そういうときに自分自身を見つめる心、そして過去の成功体験を思い出せば、挫折はしないんです。そういうのも、親が一緒に居てくれると、子どもはすごく安心して、伸び伸びとやれるんですよ。
――教育に長年携わっていらっしゃる中で、“アク育”を家庭で実践しているお子さんと、そうではないお子さんとで差は感じられますか?
それは、もう歴然です。僕でなくても、見たらわかります。それぐらい違いますよ。具体的には、やっぱり“アク育”やってきている子は発想力が豊かです。ちょっとした工夫する力がスゴイんですよ。今日の“アク育”パークの芝生だけでも、いろんな工夫をしているわけでしょ。あれだけでも全然違うんですよ。
例えば、「ホッチキスがないからもうできない」じゃないんです。工夫しちゃうんですよ。ないものはつくるんです。あるいは、「こういうふうに発想を変えたら、なくてもできちゃう」という発想をするんです。それはもう歴然たるものがあります。
――メンタル面での違いは感じられますか?
とても違いますね。“アク育”には失敗は必ずつきものですよね。落ちて痛い思いをしたり、何回やってもできなかったり。それなのに、隣で自分より小さな子が上手にこなしていたりするのを悔しい思いをしながらガマンして見ているだけでも鍛えられるんです。
先ほども言いましたが、それがレジリエンスという、折れない心です。こういうときに、お母さんやお父さんが傍にいると「ホラ、あの子見てごらん」と。「こういう風に、こうやればやりやすいんだよ、できるんだよ」とか。そんなふうにして親がやって見せることで、子どもも「なるほど」と思って乗り越えるわけですよ。それは発想力にもなりますよね。動きを観察したり、分析する力もつきます。そして、自分でも実際にやってみようと模倣する力も。そうやって工夫して成功すれば、大きな達成感が得られ、さらにもうひとつステップアップして違う方法を工夫してみようと思うようになるんです。なので、いろんな能力が開拓されていきます。
――“アク育”の重要性や必要性は多くの親が頭では理解していながらも、仕事が忙しかったり、疲れていたりで、実践が難しいこともあります。また、都会で暮らしていると近所になかなか遊び場所がなかったりということもあります。そういう場合はどうしたらいいでしょうか?
生活の質を上げていこうという方向さえ向いていれば、工夫というのは考えればいくらでもあるわけです。そんな中で子どもとどういうふうに一緒にやるかを考えていけばよいのです。
確かに都会の場合は、ちょっとボール遊びをするにしても、「ボール遊び禁止」という看板があったり。そういったお母さんたちの苦悩もわかります。だから、日曜日ぐらいは思い切って足を伸ばして遠出をしてみたりね。あるいは、パパやママもTシャツとジャージに着替えて「あそこの公園まで行って遊ぼうと思うんだけど、ランニングで行くぞー!」とかね。工夫すればできます。
それから、子どもに相談してみるといいですよ。「ママもパパも帰り遅くなっちゃって、一緒に“アク育”できないけれども、なにかアイディアを考えてくれる?」と言うと、意外と、子どもが考えてくれると思います。“アク育”が大きくなってからの子どもの学力の伸びにも効果があるということは、実は脳科学的にも明らかになってきています。
「どうすれば頭がよくなりますか?」って訊かれると、「とにかく遊ばせなさい」と答えます。昨今の子どもたちの運動量や“アク育”の低下の一因には、習い事の多さが背景にあります。幼稚園や保育園から習い事を始めても、小学5年生になればだいたい皆同じレベルになります。それよりも子どもと親子で身体を使って遊ぶ、“アク育”を実践してください。親子一緒に遊んだ後は、カラダの水分バランスを整えることも忘れないでくださいね。
――ありがとうございました。
教育・子育て界のご意見番・尾木ママさんも推奨する“アク育”。気候も暖かくなり、大人の心も体もアクティブに気持ちが向かいやすくなるこれからの季節。これを機に、家庭でも取り入れてみてはいかがだろうか。