IMF(国際通貨基金)や日本銀行での勤務経験もあり、世界経済に詳しいモルガン・スタンレーMUFG証券 チーフエコノミストのロバート・フェルドマン氏が、日本記者クラブにて『2015年の経済見通し』に関する見解を述べました。
「中国は国内問題で精一杯で経済成長は減速、ただこれ以上の悪化はない」
フェルドマン氏は世界経済について、
「米国は、FRB(米連邦準備制度理事会)が量的金融緩和からフォワード・ガイダンス(市場と対話しながら景気の先行きを明示する指針)への移行を継続しつつ、出口戦略を探る政策は変わらない。米国経済は着実に改善している。2016年には大統領選挙を控えているが、雇用状況も良くなっており、ティーパーティの力も弱くなってきている。今年に入ってからは共和党も、何にでも反対するという方針ではなくなってきた。そのため、TPP(環太平洋経済連携協定)の交渉なども進めやすくなっている」
「一方、ユーロ圏は銀行監督制度の統合や金融制度の資本充実策などを進めているが、景気は下落に転じている。消費者マインドが良くならないなか、デフレへの懸念が強い。密な貿易関係にあるロシアの経済が低迷していることもあり、景気回復は少し遅れてしまうだろう」
「また、世界が注目している中国については、国内問題で精一杯の状態だ。中国経済についても政府の『新常態(ニューノーマル)』への移行方針が進められているが、経済成長は減速している。ただ、昨年と比べ、政策の決定リズムが速くなっている点が変わってきている。市場中心へと移行しているなか、これ以上の悪化はないだろう。さらに、開発途上国では、インド、インドネシア、トルコが持続性のある成長モデルへの移行を始めている。世界経済全体で見ればゆっくりながらも、進歩はしている」
と分析しました。
「円安がようやく実質ベースで効果が出てきている」
日本経済については、
「昨年後半の景気失速など懸念材料はあるが、デフレからインフレへの移行は進展するだろう。円安についても、ようやく実質ベースでその効果が出てきている」
「輸出数量が増え始め、訪日外国人観光客も増加し、2015年もインバウンド消費の伸びが続くだろう。日米金利差がさらに開く可能性もあり、2015年末には1ドル=127円前後まで円安が進むことも考えられる。円安に伴い、企業収益が増加し、株価も上昇する」
「原油安も追い風だ。原油価格が1バレル=50ドル前後で推移すれば、他のエネルギー価格への波及もあり、年間7~8兆円程度の効果があり、ほぼ消費増税3%相当分の節約になる。雇用の改善で、賃金も上昇に向かい始めた。2015年度の実質経済成長率が2%を超えてもおかしくない」と分析しました。
「アベノミクスの目に見えない問題として、労働市場の二重構造問題」
さらに、アベノミクスについてフェルドマン氏は、
「第2の矢である財政出動で社会保障の切り込みが進まず、第3の矢も雇用やエネルギーなどで改革が滞っており、分野によって進み具合も様々だ。もっと速いペースで進める必要がある」
「アベノミクスは目に見えない問題として、労働市場の二重構造問題を抱えており、円安など大企業向けの支援政策は、中小企業にとっては悪化の要因となる。二重構造となっている労働市場において、賃上げを達成できるような政策が必要だろう」
との見解を示しました。
執筆者プロフィール : 鈴木 ともみ(すずき ともみ)
経済キャスター・ファィナンシャルプランナー・DC(確定拠出年金)プランナー。著書『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)。東証アローズからの株式実況中継番組『東京マーケットワイド』(東京MX・三重テレビ・ストックボイス)キャスター。中央大学経済学部国際経済学科を卒業後、現・ラジオNIKKEIに入社。経済番組ディレクター(民間放送連盟賞受賞番組を担当)、記者を務めた他、映画情報番組のディレクター、パーソナリティを担当、その後経済キャスターとして独立。企業経営者、マーケット関係者、ハリウッドスターを始め映画俳優、監督などへの取材は2,000人を超える。現在、テレビやラジオへの出演、雑誌やWebサイトでの連載執筆の他、大学や日本FP協会認定講座にてゲストスピーカー・講師を務める。