世界の建造物のなかでは、「万里の長城」に次いで世界2位の長さ

2014年後半から進む原油安に世界中の注目が集まり、その価格の動向から目が離せないなか、12月下旬に米・アラスカのフェアバンクスにて『トランス・アラスカ・パイプラインシステム(Trans-Alaska Pipeline System)』=『アラスカ縦断原油パイプライン』を取材しました。

北極海沿岸のプルドーベイからアラスカを縦断してアラスカ湾内バルディーズへ、800マイル(1,280km)を結ぶパイプライン。全長800マイルのうち420マイルは、動物などがぶつからないように地上高架式となっています。

パイプ架台。パイプには高温の原油が流れているため、この熱を逃がすため架台にはラジエーター(放熱板)が付いている。またパイプはガラス繊維で断熱されており、熱による長さの変化や地震による横揺れを逃がすため架台には固定されておらず横方向にスライドできる。

世界の建造物のなかでは、世界一長い中国の「万里の長城」に次いで世界2位の長さ、東京から福岡までが約880kmですので、その1.5倍の長さを誇ります。

北極海沿岸のプルドーベイにある油田は、日量40万バーレル(64,000立方メートル)の原油を産出し、全米の原油産出量の約10%~15%を占めています。その原油を輸送するアラスカ縦断原油パイプラインは、1日210万バーレル(330,000立方メートル)までの輸送が可能であり、米国内最大のパイプラインです。

このパイプラインは、第一次オイルショック時に直面した石油不足への対策として、1974年に着工し1977年に完成、建設費は80億ドル以上とされています。

使用されているパイプは全て日本製

使用されているパイプは全て日本製(当時の新日鐵)。当時は48インチ(1,219mm)という大径鋼管を日本の技術以外では製造することができませんでした。船などに使う厚板を巨大プレス機で曲げた後、溶接して製造されたパイプです。

清掃ピグ。パイプの内面を通過させ清掃するピグと呼ばれる装置。

1968年に、石油会社ARCO(現・BP)が北極海沿岸にて、250億バーレルという北米一の埋蔵量を持つプルドーベイ油田を発見しました。

そして、この油田から米国本土への原油の輸送について、様々な方法が検討されたなか、鉄道やタンカーでの輸送よりも強度である唯一の方法として、パイプライン方式が採用されたのです。

温度差による金属の伸び縮みを考慮し、パイプはジグザグに

夏は30℃を超え、冬は-50℃となる日もあり、夏・冬の気温差が90℃近くになる地域のため、温度差による金属の伸び縮みを考慮し、パイプはジグザグに造られています。

パイプの直径は1.2mもある。

パイプラインは、ブルックス山脈、アラスカ山脈、チュガッチ山脈と3つの山脈を超え、大河ユーコン川を含む800以上の中小河川を渡り、バルディーズに運ばれます。そしてバルディーズからタンカーに積まれて米国本土に渡り、ワシントン州やカルフォルニア州内の石油精製所にて石油に精製されます。

そのため、アラスカでは精製された石油やガソリンを米国本土から逆輸入する形となり、本土と比べると、ガソリン代や光熱費、食料品の価格は10%~20%割高となってしまいます。

石油関連企業が納める税金を運用する『アラスカ永久基金』

一方で、アラスカ州の歳入、経済を支えているのは石油関連産業であり、原油関連の収入は州政府の歳入の90%を占めています。歳入に貢献しているのが、石油関連企業が納める税金を運用する『アラスカ・パーマネント・ファンド(アラスカ永久基金)』です。

このファンドの運用によって得た利益をアラスカ州に在住する全住民に給付金として還付しています。

原油価格が高騰した2008年には大人、子供問わず一人につき3,296ドルという多額の還付金が住民に渡りました。この還付金はアラスカに一年以上住んでいれば、外国人でも支給され、平均すると、毎年、2000ドル前後の還付金が与えられます。

まさにオイルマネーがアラスカ州民の豊かな生活を支えていると言えるわけです。

ですので、原油価格が下落すれば還付金も減額され、アラスカ州民の生活にも悪影響が及びます。まさに原油価格の動向に左右されやすいのが、アラスカの経済・財政なのです。

天然ガス、地熱や風力、水力などの再生可能エネルギーなど、あらゆる資源が豊富

ただ、アラスカは、原油に限らずクック湾に埋蔵されている天然ガス(パイプラインの建設計画も浮上)、内陸部で開発が進む地熱や風力、水力などの再生可能エネルギーなど、あらゆる資源が豊富な地域です。

そのため、再生可能エネルギー開発の研究に力を注ぐ世界中の科学者たちが、この地への関心を高めています。原油(パイプライン)と共に歩んできたアラスカが、原油安の影響を軽減させるために、今後どのようなエネルギーを開発し、発展を遂げていくのか、興味深く見ていきたいと思います。

執筆者プロフィール : 鈴木 ともみ(すずき ともみ)

経済キャスター・ファィナンシャルプランナー・DC(確定拠出年金)プランナー。著書『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)。東証アローズからの株式実況中継番組『東京マーケットワイド』(東京MX・三重テレビ・ストックボイス)キャスター。中央大学経済学部国際経済学科を卒業後、現・ラジオNIKKEIに入社。経済番組ディレクター(民間放送連盟賞受賞番組を担当)、記者を務めた他、映画情報番組のディレクター、パーソナリティを担当、その後経済キャスターとして独立。企業経営者、マーケット関係者、ハリウッドスターを始め映画俳優、監督などへの取材は2,000人を超える。現在、テレビやラジオへの出演、雑誌やWebサイトでの連載執筆の他、大学や日本FP協会認定講座にてゲストスピーカー・講師を務める。