握り寿司の人気ネタと言えば、真っ先に思い浮かぶのが“マグロ”。艶やかな赤い身は、まさに握り寿司の象徴的存在と言ってもいいだろう。全国に350店舗以上を展開する、宅配寿司チェーンの「銀のさら」でも、マグロはなくてはならない定番の人気寿司ネタだ。そんな同社のマグロが12月から密かに変化を遂げたことにお気づきだろうか。

銀のさらでは、これまで中トロには“ミナミマグロ”と呼ばれる種類のマグロが使用されてきた。名前のとおり、南半球の海域に分布するマグロであり、インド洋で多く捕獲されることから、“インドマグロ”と称されることもあるマグロだ。しかし、この12月からは、中トロを“クロマグロ”とも呼ばれる、マグロの中でも大型種“本マグロ”に一本化したというのだ(※一部地域を除く)。

11月まで使用されていたミナミマグロ(左)、12月より使用されている本マグロ(右)

本マグロに変わるとどうなるの?

同社で仕入れを担当する野村武史氏

銀のさらで使用されているマグロは、捕獲された天然のマグロを生簀で餌を与えて太らせる“蓄養マグロ”と呼ばれるもの。従って、卵からふ化した稚魚から育てる“養殖マグロ”とは狭義の意味では厳密には区別される。

銀のさらを展開する、同社で仕入れを担当する野村武史氏によると、「ミナミマグロは養殖期間や、養殖中のエサの与え方により、脂の“のり”に善し悪しが生じやすいんです。対して、本マグロの場合は、年によって差はあるものの、品質が安定しているんです」とのこと。つまり、年間通して上質なマグロを使用するには、本来は本マグロのほうが適しているのである。

銀のさらがこれまでミナミマグロを使用してきたのは、単にコストの問題だけではない。同社営業企画部商品戦略グループの鈴木純也氏は「以前は本マグロを使用していたんですが、6年ぐらい前に資源保護の観点から大西洋での本マグロの養殖が制限され、本マグロの使用を控えなければならなくなりました。しかし、それからひと段落して大西洋の本マグロの資源も回復しているため、再度切り替えを検討しました」とこれまでの背景を明かす。

同社営業企画部商品戦略グループの鈴木純也氏

そんな中、顧客満足度のアップを目指す、銀のさらが今年1年の目標に掲げてきたのが“1年を通した上質化”。第1弾がウニ、第2弾がシャリを見直し、その次が今回の中トロに焦点を当てた。

「今年1年、質には妥協できないとやってきました。中トロは盛り込み寿司上位ランクの商品にすべて入っている商材でもありますし、寿司ネタにおいても“フラッグシップ”と言える存在。何よりも満足度を高めようと、今回、大幅な見直しを図りました。品質だけでなく、ネタのサイズも変更し、厚さは少し抑えて、長くするなど、よりよい素材をよりおいしく食べていただけるように工夫を凝らしています。来年1年は『中トロと言えば銀のさら』とイメージしてもらえることを目指しています」(鈴木氏)

バイヤーの野村氏によると、今回のプロジェクトが始動したのは今年の夏からで、それから2~3カ月の間、国内の商社から仕入れた素材を、多い日で1日で20~30貫のテイストチェックを行ったという。

マグロを食べ比べてみる

そんな苦労の末、短期の調達期間ながらも実現した、今回の本マグロへの再変更。これまで使用していたミナミマグロとの食べ比べをさせてもらった。

ミナミマグロ(手前左)、本マグロ(手前右)、メバチマグロの赤身(奥)

目の前に出された中トロの握りは、まずは見た目からして異なる。本マグロのほうが筋が均質で、人間の肌で喩えるならばキメが整っている感じ。色味にもムラがなく、まさに我々が思い描く“トロ”といった印象。

味のほうは正直、ミナミマグロもおいしい。しかし、やはり脂のりは本マグロが断然上。舌の上で溶けるようなまろやかさがあり、霜降りの生の牛肉を食べているような味の濃さだ。

なお、銀のさらでは、来年以降、“中トロ”の新メニューをさらに検討中だそう。バイヤーこだわりの本マグロの中トロを違ったバリエーションでさらにおいしく楽しめる日が今から待ち遠しい限りだ。