最近猫のフィラリアについて問い合わせが増えてきました。犬の病気と考えられていたフィラリア症が猫にもあり、死亡例もでていることがわかったからです。フィラリアは蚊によって感染する病気です。実はフィラリアといっても多くの種類があるのですが、ここでは犬猫で最も問題になる犬糸状虫について説明します。

(画像は本文と関係ありません)

猫のフィラリア症(犬糸状虫症)

犬糸状虫という和名から誤解を与えやすいですが、フィラリアは猫にも感染します。犬猫だけでなく、イタチや稀に人にも感染する寄生虫です。フィラリアが成長するのにもっとも適した環境は犬の体内であるため、このような和名がつけられたのでしょう。

犬と猫のフィラリア症の違い

犬の場合から説明します。蚊の吸血に伴いフィラリアの幼虫が犬の体内に入ると6~7カ月で成虫になりフィラリアの子供(ミクロフィラリア)を産みます。

フィラリアに感染すると咳や食欲不振などの症状が起こりますが、殆ど症状が表れない犬もいます。大量のフィラリアが肺動脈に詰まる、または心臓まで入り込み弁の動きを邪魔する(大静脈症候群)と急激に症状が表れ、死に至る危険性があります。

猫の場合はフィラリアの幼虫が体内に入っても成長が遅く、成虫に至るものも少ないです。猫は犬に比べてフィラリアに対する抵抗性が強いからです。また、成虫になったフィラリアがミクロフィラリアを産むことも稀で、1~3隻(フィラリアの数え方で、セキと読みます)の少数感染が殆どです。そのため、死滅したフィラリアが肺血管に詰まることはあっても、大静脈症候群のような病態に陥る事は非常に稀です。

それでもフィラリア予防が必要な理由 数は少なくても成虫まで成長する可能性があること、また未成熟なフィラリアでも免疫応答によって症状が引き起こされるからです。

猫のフィラリア症の症状・病態

猫フィラリア症は3つの病態にわけることができます。

(1)未成熟なフィラリアによって起こる呼吸器疾患(HARD)

未成熟虫が肺動脈まで到達し、死滅することで起こる病態を「犬糸状虫随伴呼吸器疾患(HARD)」と呼びます。発症すると、呼吸が速くなる、開口呼吸(犬のように舌を出して行う呼吸)等の症状が出ます。生き残ったフィラリアが成虫まで成長すると、免疫応答が抑制され症状が消失し、症状が一時的に収まります。ですので、この反応は猫喘息やアレルギー性気管支炎と誤診されることが多いです。

(2)成虫が死滅したときに起こる急性期

成虫が死滅すると成虫による免疫抑制が消失します。その結果、死滅した虫体により重篤な肺障害が起こります。このときに、突然死を引き起こすこともあります。成虫に感染が認められた猫の21%が死亡したという報告もあります。

(3)慢性犬糸状虫症

慢性犬糸状虫症とは、急性期を乗り越えた猫に残る慢性的な呼吸症状です。(2)の際に元に戻らないダメージが肺に残り、咳などの軽度の呼吸器症状が続きます。

猫のフィラリアの感染率

猫のフィラリア症の感染率を調べるのは非常に難しいです。その理由は、犬のフィラリア症の診断の要となるミクロフィラリア検査、心臓超音波検査、抗原検査が、猫においては有効ではないからです。

まず猫の場合、ミクロフィラリアは血液検査では殆ど検出されません。そして殆どが1~3隻の少数寄生なため、超音波検査で心臓や肺血管のフィラリアを発見することも困難です。

抗原検査陽性は成虫の感染を意味しますが、実はこの検査は、主に雌の成虫抗原を検出します。そのため雄成虫の少数寄生や未成熟虫のみの感染の場合は、感染していても抗原検査結果が陰性になってしまいます

「約10頭に1頭の猫がフィラリア幼虫に感染しています」という数字を動物病院に置いてあるパンフレットやポスターでみたことがあるでしょうか。これは猫のフィラリア抗体検査調査の結果を表しています。

この抗体検査調査が意味するのは「10%の猫がここ数カ月の間にフィラリアに感染した蚊に接触し、フィラリア幼虫に感染した」ということです。しかし、このうちどのぐらいの猫で成虫まで成長するのか、また(1)のような症状が現れるかは不明です。

1997年の少し古いデータですが、国内では猫のフィラリア成虫の寄生率は0.8%であったという報告があります。しかし猫では、未成熟虫も(1)の病態の発症に関わっているので、この数字が猫のフィラリア症の発生率を表しているとはいえません。

猫のフィラリア症の複雑な病態が、正確な発症率の解明を妨げていますが、けっして少なくない数の猫が、毎年フィラリア症で苦しんでいます。

フィラリアの予防法

月に1度のフィラリア予防薬をつけることで効果的な予防ができます。アメリカ犬糸状虫協会(AHS)のガイドラインでは、通年予防が推奨されていますが、日本では蚊が飛来する5~11月に加え、蚊のシーズンが終了してから1カ月後の12月まで予防することをおすすめします。フィラリアの予防薬には、皮膚に付けるスポットタイプと、経口タイプの薬があります。

予防は室内飼いでも必要?

フィラリア成虫寄生の約25%が完全室内飼いであったというデータもあります。蚊が生息していない地域、または完全に蚊が侵入できない構造の家に住んでいない限り、予防は必要です。

まとめ

猫のフィラリア症は犬と病態が異なり、理解が難しい病気です。また、蚊によって媒介されるため、完全に防ぐには確実な予防が必要です。今回お伝えしたい事は、犬だけでなく猫にもフィラリア症があるということ、死に至る危険性があるということです。確実な予防をお勧めします。

出典

Current Feline Guidelines for the Prevention, Diagnosis, and Management of Heartworm (Dirofilaria immitis) Infection in Cats. American Heartworm Society 2014

Claudio G, Luigi V, Nicola F, et al., ‘Feline heartworm (Dirofilaria immitis) infection: A statistical elaboration of the duration of the infection and life expectancy in asymptomatic cats.’ Vet Parasitol 158, 2008 177-182.

Nogami S, Sato T, ‘Prevalence of Dirofilaria immitis infection in cats in Japan.’ J Vet Med Sci 59, 1997 869-871.

■著者プロフィール
山本宗伸
職業は獣医師。猫の病院「Syu Syu CAT Clinic」で副院長として診療にあたっています。医学的な部分はもちろん、それ以外の猫に関する疑問にもわかりやすくお答えします。猫にまつわる身近な謎を掘り下げる猫ブログ「nekopedia」も時々更新。