大井川鐵道のSL列車「きかんしゃトーマス号」が運転開始され、お茶の間の話題を独占。JR山手線の新型車両E235系、東京モノレールの新型車両10000形も話題となった。足湯も楽しめる山形新幹線のリゾート列車「とれいゆ つばさ」をはじめ、観光列車の話題も尽きない。2014年7月の鉄道ニュースは驚きがいっぱい。鉄道ファンだけではなく、多くの人々の記憶に残ったようだ。

大井川鐵道「きかんしゃトーマス号」国民的話題に

大井川鐵道にトーマス現る!

大井川鐵道は7月2日、SL列車「きかんしゃトーマス号」の試運転を行い、報道関係者や地元関係者にも披露された。これに先駆けて何度か試運転が実施され、その写真や動画がネットで広まり、鉄道ファンのみならず関心を集めていた。この日の試運転によってテレビやニュースサイトでいっせいに報じられ、お茶の間の話題を独占した。

大井川鐵道といえば、蒸気機関車の保存運転の老舗。鉄道ファンで知らない者はいないだろう。映画・ドラマでも、昭和の時代を再現した場面などで大井川鐵道の蒸気機関車が使用され、有名なロケ地のひとつでもある。さらに、トーマスといえば誰もが知っている子供番組の主人公で、認知度はケタ違い。改めて大井川鐵道の存在を全国に知らしめたといえる。

「きかんしゃトーマス号」に使用される蒸気機関車は、戦時中に製造されたC11形227号機。トーマスの姿に近づけるため、ヘッドライトの位置をボイラー上部から連結器付近に移すなど、塗装以外にも大胆な改造が実施された。客車も、『きかんしゃトーマス』に登場するトーマスの仲間「アニー」「クララベル」に合わせたオレンジ色に塗装。試乗会では7両編成で、ベースとなった車両は1号車から順に、「スハフ42 304」「オハ47 512」「オハ47 380」「オハ47 398」「スハフ42 184」「オハ47 81」「スハフ42 286」だった。

JR山手線の新型車両E235系、なにかに似ている!?

大井川鐵道「きかんしゃトーマス号」が報道公開されたのと同じ日に、JR東日本は山手線向けの新型車両E235系量産先行車の製造を発表した。来年3月以降に落成し、試運転を実施。営業運転は2015年秋頃からとのこと。現在の山手線の車両E231系は2002年のデビューで、E235系は13年ぶりの新車導入となる。

この「13年」が興味深い数字だ。電車の減価償却期間は法律で13年と決められている。山手線の電車は耐用年数が過ぎたら交換というわけだ。

国鉄時代まで、鉄道車両は「丈夫で長持ち」するように作られていた。JR東日本はその常識を打ち破り、あらかじめ短い耐用年数を想定した。新車導入を早め、技術革新に対応しようという考え方だ。車両にリサイクル可能な素材を使うなどして、無駄をなくしている。

山手線は東京を訪れる人のほとんどが乗る路線である。そのため、新型車両の情報も全国的な話題となった。なんといっても前面デザインが特徴的だ。「スマートフォン」「スティックタイプのUSBメモリ」「コンセント」など、「なにかに似ている」という点でも話題に。たしかに、おしゃれなITガジェットになりそうな雰囲気。もしかしたら関連グッズが売り出されるかも!?

移り行く車窓の景色を眺めながら「足もとホッカホカ」

7月19日、JR東日本は山形新幹線福島~新庄間で、リゾート列車「とれいゆ つばさ」の運行を開始した。秋田新幹線「こまち」で使用していたE3系が、E6系導入によって引退し、その一部が山形新幹線に移籍。うち1編成が改造されたという。11~16号車の6両編成で、号車番号は東北新幹線に併結する「つばさ」に合わせている。ただし、いまのところ運行区間は在来線区間のみ。

この列車の最大の特徴は、16号車の足湯だ。赤い湯船がふたつ用意され、お湯で足もとを温めつつ、車窓を眺められる。残念ながら温泉ではないとのこと。それでも移り行く車窓と足湯は新しいリラクゼーションだ。15号車はバーカウンターを備えた湯上がりラウンジ。12号車から14号車まではお座敷タイプの指定席となっている。

「とれいゆ つばさ」はおもに土休日に1往復運転され、在来線特急列車の扱いになっていて、福島駅では在来線ホームに発着する。全車指定席で、11号車は普通車指定席となっている。観光列車としてだけではなく、奥羽本線の列車のひとつとしても利用できるだろう。ただし、足湯については、「びゅう旅行商品」として座席を確保した上で、オプションの「足湯利用券」が必要とのこと。

ちなみに、「とれいゆ」の名前の由来は、「トレイン+お湯」ではなく、「トレイン+ソレイユ」。「ソレイユ」はフランス語で太陽という意味だ。

羽田空港国際化に対応した東京モノレール新型車両10000形

7月18日、東京モノレール新型車両10000形の営業運転が開始された。外観は2000形をベースとしつつ、塗装はブルーとグリーンを基調とした。歴代の東京モノレール車両が使用していた赤系統の色がなくなり、新鮮な外観である。ひょっとして、羽田空港アクセス路線のライバル、京急の赤を嫌ったのだろうか……?

東京モノレール新型車両10000形。大型荷物置場を用意した

それはともかく、10000形は2000形以来17年ぶりの新型車両だ。羽田空港アクセスが主目的の路線だけあって、新型車両は「羽田空港再国際化」を強く意識している。海外旅行客向けに大きな荷物を置くスペースを用意し、金属製のアームで固定できるという親切設計。向かい合わせ座席の間隔を広げて、体格の大きな外国人にも対応した。車内には日本を象徴する富士山・五重塔・盆栽・扇子などの柄が入り、「おもてなし」ムードを高めている。

10000形は1000形の置換えを目的に、年に1~2編成を導入する予定。2020年の東京オリンピックまでに半数が10000形になるという。振り返れば、1000形は羽田空港が国内線専用になってからの登場で、荷物置場は小さかった。2000形は天王洲アイル駅開業を意識し、ロングシートを増やした通勤対応車。今回の10000形は空港輸送に立ち返り、国際線を重視している。車両形式の変遷が羽田空港の変遷にリンクしているところが興味深い。

北陸新幹線金沢開業を前に、新しい観光列車が続々登場!

近年、「ななつ星 in 九州」(JR九州)や「TOHOKU EMOTION」(JR東日本)など、各地で新しい観光列車が誕生している。5~6月にはJR西日本とJR東日本が相次いで豪華列車に関する発表を行い、話題となった。7月も新たな観光列車の情報が続々と届いた。

七尾線の観光列車(JR西日本)

JR西日本は7月7日、七尾線観光列車の概要を発表した。2015年10月から運行予定で、土休日や多客期を中心に、金沢~和倉温泉間を1日2往復する。途中停車駅は羽咋駅と七尾駅。

キハ48形ディーゼルカー2両編成を改造し、輪島塗や加賀友禅をモチーフに、「和と美」をテーマとしたという。車内では伝統の和菓子やきき酒セットなどを販売、イベントスペースや大型モニターを使ったおもてなし演出も。近鉄の観光列車「しまかぜ」を担当した山内陸平氏がデザインを監修する。

7月11日、しなの鉄道は観光列車「ろくもん」の運行を開始した。ベースとなった車両は近郊形電車115系3両編成。片側3扉のうち、中央の扉を窓に改造し、室内は長野県産の木材をふんだんに使ったラウンジ風に仕上げたという。おなじみ水戸岡鋭治氏のデザインだ。土休日や学期間休み、年末年始を中心に運行される。乗車には指定席券が必要で、沿線のレストランとタイアップした車内食事付きプランもある。

7月22日には、JR東日本が飯山線向けの観光列車を発表している。キハ110系ディーゼルカー2両を改造。通常は1両で定期普通列車として運行し、土休日などに2両連結して観光列車として運行する。車内や駅でのおもてなしイベントも計画しているとのこと。定期列車としてのデビューは2014年12月、観光列車としての運行は2015年春からの予定だ。

外装デザインは、「うさぎ追いし……」でおなじみの唱歌「ふるさと」をモチーフとし、ウサギやフナなどのマークと五線紙をあしらう。車内は、「懐かしのおばあちゃんち」の古民家風とする。唱歌「ふるさと」は長野県中野市出身の国文学者、高野辰之が作詞した。飯山市は、北陸新幹線飯山駅の発車メロディも「ふるさと」にするようはたらきかけているという。

飯山線の普通列車に使用されるキハ110系

7月も新型車両や新列車の話題が多かった。大井川鐵道の「きかんしゃトーマス号」は、報道公開の時点で今年の運行列車がすべて満席、この報道公開で情報を知ったところでキャンセル待ち状態という人気ぶり。じつは、この列車の運行開始は2013年12月26日に発表されており、予約受付も2014年1月14日から大井川鐵道ウェブサイトで始まっていた。情報に敏感な人が勝利するという典型的な事例となった。

山形新幹線「とれいゆ つばさ」は、観光列車のデビューだけではなく、余剰となった新幹線車両の活用法としても注目の事例だ。「ななつ星 in 九州」は新製だけど、観光列車のほとんどは在来線余剰車両の再利用。その流れがついに新幹線にも及んだ。しかも足湯とは大胆な発想だ。今後は寝台列車なども作ってほしい。

山手線と東京モノレールの新型車両は、それぞれの鉄道会社の方針が表れている。共通点は最新技術を導入し、運行の確実性を高め、乗客への情報提供を増やしていること。E235系は荷棚上にも液晶画面を採用し、中吊り広告を廃止する動きもあるという。これは交通広告界の革命となりそう。10000形については、訪日外国人に対してどのような情報提供や広告を展開するかも注目したい。

最後にまとめた金沢・長野エリアの観光列車は、いずれも2015年春の北陸新幹線金沢開業に向けた動きとなる。北陸地域では首都圏からの大量の観光客動員に期待している。長野県は通過客となりそうな新幹線利用者に対し、長野地域で降りて観光してもらうための策を講じている。さて、ここで気になる路線がある。北越急行ほくほく線だ。

北陸新幹線の開業で、上越新幹線と連絡する現在の特急「はくたか」は廃止されるだろう。そうなると北越急行は大幅な収入減を余儀なくされる。いまのところ、"貯金"を増やして対応しているけれど、新たな集客対策も必要になるだろう。現在、プラネタリウム風の「ゆめぞら号」を運行しているが、はたして次の策はあるだろうか? 今後の動きに注目だ。