――歌舞伎と繋がる部分?

歌舞伎は、それこそ一昔前なら、小さい頃におばあちゃんに連れて行ってもらうというひとつの文化の形がありましたが、最近は減っています。ただ、少し前に小、中、高、大学生が対象の"学生歌舞伎"をやらせていただいて、小学生の日でひとつ発見があったんです。この日は、台詞ひとつとっても普段より滑舌よくしたり、特に気を遣いました。小学生にどこまで理解できるのかと心配していたんですが……これが大ウケだったんですよ。彼らは最初から最後まで前のめりで、「あはははは!」って手を叩いて喜んでいる。

――小学生がですか?

そうです。歌舞伎十八番のひとつで「毛抜」という芝居があります。毛抜が大きくなり、漫画みたいに宙に浮いていく――すると、子供たちが「うわあああああ!」と100点満点のリアクションで驚く。彼らには感覚的にわかるみたいです。高校生や大学生よりも歌舞伎をしっかり観てくれている。つまり、思春期を超えると自分の物差しがある程度完成されてきますから、自分の感覚に合わないと斜めに構えたり、寝てしまうこともあります。だけど、小学生が純粋に目と音で楽しめるように、歌舞伎というのは実はすごくシンプルで、わかりやすいものなんです。どうも世間的に敷居が高いのか、子供も大人も歌舞伎に触れる機会、きっかけすら少ないのが現状。ただ、きっかけというのはすごく大切で、例えば物心つくかつかないかくらいの子供たちに、もし僕が"仮面ライダーに変身した人"ということが前提にあれば……。

――違いますね。反応がより大きくなる。

そうでしょう! 「あ! 仮面ライダーでてた人や!」ってさらにテンションが上がるはずなんです。全然違うでしょう? そこなんですよ。小さい頃に仮面ライダーやキカイダーが大好きだった僕と今の歌舞伎をやっている僕――そこが繋がってくる。今回の仮面ライダーへの出演は、きっと歌舞伎にも繋がるはずだと思ってオファーを受けることにしたんです。仮面ライダーと歌舞伎、どちらも日本の文化であり、小さい頃から触れられる文化です。日本も経済的に色々なことが言われていますが、文化が豊かにならないとお金はまわらないでしょう。そういうことの積み重ねが未来に繋がっていくと思っています。

――それは、歌舞伎を始められた当初から愛之助さんの頭にあったのでしょうか?

歌舞伎を始めた頃は、自分のやらせていただく仕事はもちろん、師匠のことでいっぱいいっぱいで、何かを考える余裕なんて全くなくて。逆に、歌舞伎以外の仕事に全く興味がなかったほどです。本当に歌舞伎一筋でした。

――昨年の『半沢直樹』を経て、歌舞伎以外の世界から色々な声が聞こえ、色々な人に出会い、愛之助さんご自身の景色も変わってきたと思います。

確かに景色が変わった部分もあります。ただ、僕の仕事内容はそれほど変わっていないんです。だいたい2年先までスケジュールが詰まっているのは、ここ最近の話でもなくて、ずっと前から。『半沢』以後で急に主役が増えたわけではなく、歌舞伎の中ではずっと座頭として主役を務めさせていただいたこともありましたので。先ほどのお話のような、どうやったら歌舞伎にご縁のない方に見に来ていただけるのか? ということは、10年くらい前から考えるようになりましたね。歌舞伎一筋だった僕が、役者をはじめ色々なお仕事をやらせていただく中で「これはこれでまた面白いな」と思えるようになってくると、歌舞伎に繋がるはず、と自然な流れで変わっていきました。『半沢』について言えば、そういう流れの中で「年に1本は、歌舞伎以外の映画なり舞台なりに出よう」と決めて、その中にたまたまあっただけなんですよ、本当は。

――大きな流れの中のひとつでしかないと。

そうです。もちろん『半沢』に出会えたことは僕の財産です。ただ、たまたまそこにあった、たまたま視聴率がよかったという話で、視聴率が20%や30%いくなんて誰も思っていませんでしたから(笑)。

――ここ最近の歌舞伎界は、愛之助さんをはじめ、市川海老蔵さんが歌舞伎界を飛び出して現代劇にも進出し、尾上松也さんが『永遠の0』の主演に抜てきされ、香川照之さんが戻って来られたり。すごく活気に満ちていて、元気ですよね。

僕もそう思います。昔からお世話になった、かわいがっていただいた先輩が次々と亡くなりました。絶対にあって欲しくないこと、本当に信じられないようなことが立て続けに起こりました。そういう中で、奮起してがんばるしかないんです。僕らが、裾野を広げていくことがまず大事なことだと思います。海老蔵さんともよく話しますが、彼もすごくそういうことを考えていて。それでいて一致団結というよりは、世代の近い方たちが皆同じような想いを抱いていて、気がついたら良い流れが生まれていた、というのが実感としてありますね。

――海老蔵さんといえばブログの更新が凄まじいですが、愛之助さんも昨年ブログを始められましたね。

僕は、海老蔵さんの勧めで始めました。だから、彼に習ってブログはこれくらいあげるのが普通なのかって思っていたら、彼が言うんですよ、「すごいブログあげるね」って。いやいやいや……僕は海老蔵さんのブログしか見たことがなかったので、他の人を見てみると、ほんと3日に一回とか(笑)。同じことをやるならたくさんやった方がいいし、僕を知ってもらえることはありがたいことです。ブログを知らなかった人間にとって、コメントは新鮮でしたね。世の中の人が何を思ってどう見てくださっているのか、ストレートにわかる。コミニケーションも一方的ではなくなるし、直接声として聞こえるのがすごく勉強になります。

――ブログはいつも楽しみに見ております(笑)。では、最後に映画をご覧になる子供たち、あるいは親御さんたちにメッセージをいただければと思います。

歌舞伎界から初のライダーとして、悪役を思う存分演じさせていただきました。ですから、子供たちは道で僕を見かけても石を投げないでください(笑)。ただ、悪役は人気があるみたいで……そうそう『半沢』でもね、僕のことを子供たちが意外と知ってくれていることには驚きました。

――大人だけでなく、子供たちが?

意外でしょう? 街を歩いていても、帽子を被っていればだいたいバレません。だけど、視界のラインが低い子供たちにはバレてしまうんですよ(笑)。エレベーターに乗っていて、視線を下ろすと、子供たちが「あっ! あああああ!」って(笑)。黒崎までは出てこないみたいでしたが。そうすると僕は、指を口に当てて「しーっ!」って。子供たちに好かれるということは狙ってできることではないので、これはうれしいことです。なので、今回の仮面ライダーも、そして歌舞伎もひとつのきっかけとして、日本の文化全体を盛り上げていきたいと思っています。

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