ひとつは『ニコニコ大捜査網! あの人は今』だ。これもテレビ番組のよく似た企画のオマージュだが、以前ニコ動やネットで話題になった一般人の今を取材するというコーナーである。生放送企画ではなくVTRなのが残念といえば残念だが、著名人ではない「ネットで有名な一般人」のその後を知る機会はあまりないので、とても興味深く見ることができた。ネットメディアなどでも近い記事はたまに出てくるが、こうして何人もまとめて、しかも映像で見ることができるのはニコニコならではだ。

例えば初期のニコ動で「踊ってみた」を投稿し話題になった「ニコ麻呂」や、むちゃくちゃな料理動画で人気を得ていた「中村」などは、黎明期からのニコ動ユーザーにはおなじみだが、一般的なメディアではまず扱われることのない人々だろう。先ほど23時間テレビについて「一体感がなかった」と書いたが、こういったニコ動ならではの内輪話は別だ。

そして、ニコ動ユーザーアンケートでストーリーの行く末が変わる『弾幕ヒーロー ニコバスターズ』。23時間テレビの中で何回かに分けて行われたこの戦隊物ドラマは、23時間テレビの中でもっともニコニコらしい企画だった。ストーリーは、自分では何も決められない優柔不断な主人公がひょんなことから正義の味方ニコバスターズの一員となり、悪の組織と戦うというもの。主人公はとても優柔不断なので、ユーザーアンケートを頼りに物語を進めていくという設定だ。

このドラマ、なんといっても、全体的な作りのチープさが良い。ヒーローへの変身のシーンにはあらかじめ用意された変身ムービーが流れるのだが、これが毎回フルで流れる上にとても長い。なぜかというと、俳優陣が本当にヒーローの衣装に着替えているからだ。テレビなら別の役者に入れ替わるところだが、そういった"お約束"を逆手にとったニコニコならではの演出である。しかも、運営コメント(テロップ)にはその間、「着替え中」という表示がわざわざ出されるので、視聴者からは「着替え中とか言うなよwww」といったツッコミが入るのだ。このやりとりがとても楽しく、視聴者と出演者の一体感を強く感じる場面だった。

このほかにも、劇中にコメントが表示されるモニターが登場し、視聴者からのコメントをあくまでドラマの流れのひとつとして拾ったり、ユーザーアンケートでストーリーを選ばせるだけ選ばせておいて結局ルートはひとつしかなかったりと、ニコ動らしいユニークな仕掛けがあちこちに施されていて、最後まで楽しく見ることができた。ちなみに、ストーリーのラストにはアンケートをとると見せかけて、「最後は自分で決める!」と主人公が宣言する場面があり、なかなか熱い展開でもあった。

なお、黒幕の正体として川越シェフが特別出演しており、意外にもハマっていたことを報告しておこう。

もうひとつ、挑戦的な企画としては、「久本雅美の女だらけでパーっとしゃべりましょ!」が挙げられる。ここでは詳細は割愛するが、事情に多少詳しい人であれば、ニコ動と久本雅美という組み合わせがいかにタブーに挑戦するものなのかはわかるはずだ。

しかも、当日は久本雅美の目の前にコメントモニターを置いて、ニコ生ユーザーとコミュニケーションさせるというブッコミ具合である。筆者もハラハラしたが、もっともハラハラしたのは運営スタッフだろう。

ニコ動運営は、ときどき暴走する。例えば過去にはビリー・ヘリントン氏にコンタクトをとって日本に招いたり、吉幾三に時報を依頼したりして、ユーザーの度肝を抜いた。ニコ動はやはり、こういうとがった企画を実現させたときがもっとも輝いている。

このほか、意外に楽しめたのは「西川貴教のイエノミ!!」。いつもはニコニコ生放送で放送している番組のスペシャル版だ。この企画自体は通常の「イエノミ!!」の拡大放送にすぎないのだが、ゲストとして登場した相川七瀬と、西川貴教の元妻でもある吉村由美がいつにもまして大暴走し、生放送ならではの暴露トークを繰り広げたのだ。テレビだからできない、ニコ動だからできる……とは一概には言えないが、これがもしテレビかつ収録であれば、西川貴教の元恋人を痛烈に批判する相川七瀬の発言は果たして流れていたかどうか……。

最近では芸能人も当たり前に冠番組を持ったり出演したりするようになったニコニコ生放送だが、テレビよりも規制がゆるいことと生放送であること、そしてユーザーとコメントを通してコミュニケーションできることで、彼らの魅力はテレビ以上に引き出されている気がする。

さて、いくつものハラハラする瞬間を乗り越えつつ、無事に長時間の放送をやり遂げた「ニコニコ23時間テレビ」だが、実はニコ生での長時間放送自体は珍しいものではなく、これまでにも48時間や72時間、81時間といった長い放送は存在した。ただし、それらはアニメやミュージシャンのMVをひたすら流したり、ゲーム実況など特定の企画を延々続けるといったもので、今回のようなしっかりと練りこまれた長時間放送はおそらく初めてのことだったはずだ。

「23時間テレビ」は、ニコニコがあえてテレビ的な番組作りに挑戦するとどうなるのかという問いに、現時点での答えを見せてくれた放送となった。テレビ番組として見た場合の課題はまだまだ多そうだが、それは回数をこなすことである程度こなれてくるはず。ニコニコ超会議や、超パーティーや、町会議がそうだったように。

逆にニコ動はすでにテレビにはない独自の文化とシステムを持っている。それを生かすことで、テレビにはできない面白さを追求していってもらいたい。