――人気の原作で、立ち上げから完成に至るまでにかなりの時間を費やした作品。監督はクランクインの時に胃潰瘍になったそうですが、そういう監督の背負うプレッシャーを感じることはありましたか。

「すっごく緊張しているんです」とおっしゃる姿が全然緊張しているように見えないんです(笑)。実際は緊張で寝付けないこともあったそうですけど、父親役の皆さんも監督がどういうスタイルか分からない状態で撮影に臨んでいるので、委ねるしかないんですよね。だから、みんなで見守るような感じだったんですけど、撮影が進むにつれてみなさん驚いていました。あの若さで、ベテランの役者さんたちにご自分の思うことを的確に伝えて、しかも判断がすごく早い。お父様方は、「たいしたものだ」とおっしゃっていました(笑)。

――忽那さんご自身ではどのように感じましたか。

確実にもう1度、絶対お仕事をしたいと思う方でした。初めてこんなにも年齢の近い監督とお仕事をしてみて思うのは、監督は監督で絶対的な存在なのですが、自分から提案できるような「壁をつくらない」雰囲気があると実感しました。

――ここ最近、『許されざる者』(2013年)、『つやのよる』(2013年)など本作含め"父"がテーマとして絡んでいる作品が続いていますね。忽那さんにとっての「父親」とは?

うちは…関係性が面白いですね(笑)。家の中の大きな決め事は父の役割ですが、わりと母が強いので父は悟(佐野史郎)さんのような感じですね。変に真面目なので、冗談があまり通じないんです。私とかがふざけても爆笑とかはしないですね(笑)。メールとかも娘に対するような文章じゃないので、「"ね"とか"よ"とか、語尾を柔らかくしていただけますか?」とお願いしています。でも、それはそれで面白くて、父らしいなと思います。

――それが理想の父親像にも繋がりますか。

どうなんでしょうね。でも、不思議だなというか、確実に未熟だったと今振り返って思うんですけど、意見が食い違っていたことは、やっぱり両親の言っていたことの方が正しかったんだなと思うようになりました。だんだんと同じ目線で物事を考えるようになって。父とそういう話をすると、父がよく「まさか汐里とこういう会話をするようになるとはね」と口にしています(笑)。

――本作は4人の父親たちとの家族の物語ですが、物事に前向きな姿勢や諦めない心、時に楽観的など、人が何かを乗り越えていく上で大切なことが描かれています。ご自身では悩みとどのように向き合いまっていますか。

最近、徐々に自分の中で調節できるようになってきたんですが。その時の状況によって違いますが1度ネガティブに入っちゃうと…(うつむきながら)こんな感じになってしまいます(笑)。でも、最近気づいたのが、そういう思いを自分の中に入れないように違う思想の中に自分を置くと、悩んでいたことがたいしたことなかったと開き直ることができるんです。これは有効的だなと(笑)。つい1、2カ月前に発見しました。

――第11回全日本国民的美少女コンテストでデビュー。多くの人の注目と脚光を浴びながらのスタートだったわけですが、これまでに挫折を感じたことはありますか。

挫折…はっきりとここが挫折といえることはないんですけど…外国の人はすごくポジティブ思考なので、たぶん日本に来る前までは自分のネガティブ思考をずっと否定してきたんだと思うんです。それが日本に来て、いろんな文化…例えばサブカル的な音楽や映画とかと出会って、自分のそういう部分が無駄じゃないんだと思うようになって、逆にネガティブ思考を拠点に、物事を考えるようになったんですよね。挫折というか、反骨的な時期が長くて、周囲の大人の方々は「もっと明るい世界があるんだよ」となだめるのが大変だったと思います(笑)。

――そこからの変化は。

ちょっとはありますけど、そこが無くなってしまうと私は仕事ができなくなってしまいます。でも、そういう面が突発的に出るのはよくないと思うんです。人間同士のコミュニティの中にいるわけですから。今は、周囲を尊重する気持ちを大切にしています。

――この話題に触れたのは、新人俳優賞を受賞した第37回日本アカデミー賞でのスピーチが印象的だったからなんです(「一日一日妥協することなく作品を作ることができる。そういう環境にたどり着けたことを感謝したい」)。

恥ずかしいです(笑)。何を言おうかなと考えていて、賛否両論あっても形として残る評価をいただけることはすごくうれしいことなんですが…そういう華やかな場所に行くとどうしても自分が場違いに感じてしまって。見渡すと、ずっと映画界で経験を重ねてきた方がいて、スタッフの方がいて。

新人賞は確かに1度しかいただけないものなんですけど、きれいごとじゃなくて自分だけのものじゃないんですよね。あの役に関しては、全然満足できてないですし。だから、あの場に立つことはどうにもこうにも後ろめたくて…周りの方々を含めたことを言いたいなと思ってあんなことを言いました(笑)。

――思いが滲み出ていましたよ。

ありがとうございます。周りは画面をとおして見る方ばっかりで…あそこの丸いテーブルに座っていると不思議な気持ちになりますよ(笑)。

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