トヨタ自動車は、2014年3月期決算で、6年ぶりに最高益を更新しました(表参照)。ソニー・シャープ・パイオニアなど、かつての輝きをなくして苦しむ日本企業が多い中、なぜ、トヨタは強いのでしょう。

トヨタ自動車、最高益回復への道のり

トヨタの最高益復活までの道のりは、平坦ではありませんでした。毎年、トヨタの利益を吹き飛ばす重大な出来事が起こってきました。これらの苦難を乗り越えて、2014年3月期、トヨタの営業利益は最高益となりました。

2014年3月期に、営業利益は9,710億円増えて2兆2,920億円となりました。会社が公表した要因分析では、そのうち9,000億円は円安効果による増益です。円が安くなったおかげで、日本から輸出している自動車の採算が大幅に改善しました。

この結果をみて、トヨタが強くなったのは「円安効果だけ」と極端な説明をする人もいます。それでは、トヨタの本当の力を説明したことになりません。前回最高益をあげた2008年3月期の決済レートは1ドル114円でした。前期の平均決済レートは、1ドル100円です。当時よりも、約14%も円高が進んでいるのです。

今回、最高益を更新した要因を分析すると、以下の3つが浮かび上がってきます。

  1. コストカット:トヨタは、円高が進む中で毎年、数千億円規模のコストカットを実施してきました。前期も、原価改善努力で2,900億円のコストを削減しています。過去6年、地道につみあげてきたコストカット効果が、円安で一気に表面化したといえます。

  2. 新興国での販売拡大:トヨタ自動車の前期の世界販売台数(小売ベース)は、1013万台と、初めて1000万の大台に乗せました。前回、最高益をあげた2008年3月期の世界販売は、943万台です。当時よりも、北米や欧州の販売が減少していますが、アジア・中南米・オセアニア・アフリカ・中近東などで販売台数を伸ばしました。

  3. 技術開発:トヨタ車が世界で売れ続ける背景には、地道な技術開発があります。トヨタ車の燃費や安全性は過去6年で一段と改善されました。トヨタが主要技術を独占するハイブリッド車の性能改善も進みました。トヨタはどんなに業績が悪化しても研究開発の手は緩めませんでした。業績が悪化すると研究開発を大幅にカットするアメリカの自動車メーカーと大きな差がついたのは、技術開発へのこだわりだったといえます。 

足元の利益にはまったく貢献していませんが、燃料電池車など、次世代自動車の開発でも先行していることが、トヨタの将来も続く強さにつながると思います。

執筆者プロフィール : 窪田 真之

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。