将棋には、結果だけで語るには惜しい対局というものがある。今回の戦いも、将棋の奥深さをまざまざと見せつけられる一局だった。

4月12日、プロ棋士とコンピュータとの5対5の団体戦「第3回将棋電王戦」の第5局が東京都渋谷区の東京・将棋会館で行われ、将棋プログラム「Ponanza(ポナンザ)」が屋敷伸之九段に勝った。すでに第4局までにコンピュータ側が3勝1敗と勝ち越しを決めており、プロ棋士側は第5局の敗戦で、前回の1勝3敗1分を下回る1勝4敗という成績で今回の電王戦を終えた。

対局場は千駄ヶ谷にある東京・将棋会館。普段の公式戦が行われる場所でもある

第3回のルールは、開発者側はプログラムの変更ができず、棋士側はプログラムの事前提供を受けることで事前に対策ができるという、棋士側に有利なもの。実際に棋士たちがこの条件をどれほど有効に活用したかについては検証の余地があるが、前回よりも条件が良くなったうえでの敗戦は厳しい事実だ。

局後の記者会見では、将棋電王戦の第4回開催は未定と発表された。コンピュータの強さはプロ棋士を超えたのか? 人間とコンピュータの戦いにおいて、我々は今後何を望めばよいのか? そうした疑問に答える前に、第5局の内容を振り返ってみたい。

定刻の10時、対局開始。初手を指す屋敷九段

将棋は盤上の駒、持ち駒を使って相手玉を追い詰めるゲーム。当然、戦力である駒の数は多ければ多いほどいい。これは将棋にあまり詳しくない人間にもわかることだ。だが、「駒がどれほど効率よく使えているか」もまた重要である、という事実はそれほど知られていないように思える。これは「駒の効率」の評価そのものが難しいことと、その効率をさらに別の要素と比較することがそれ以上に困難である、という点から来るものだろう。

今回の屋敷九段とPonanzaの対局では、コンピュータは駒の数を、棋士は駒の効率をそれぞれ支持した。全5局中、人間とコンピュータの「将棋観」の差異が最も色濃く出た一局だったのだ。正しかったのはどちらなのか――。それを突き止めたいと思った。