子供に選ぶ本、どんな内容がいい?

子育てで気になることの一つに、情操教育があります。情操とは辞書的にいえば、高い精神活動にともなって起こる感情のことであり、情緒より知的で安定感があり、持続できる情緒的態度のことです。つまり、いわゆる知識とは別の、心の教育のことです。世の中は、英語などの語学教育といった知育に関する早期教育が話題の中心です。ですが、情操教育も当然ながら重要になってきます。

情操教育と読書

子供の情操を育てるということを考えたとき、そこには音楽や読書などか関わってくると思います。そこで、今日は読書に注目して考えていきましょう。例えば、子供に読ませるべき本には、どんな本があるのでしょうか。一般的に、漫画は低俗であり(今日では重要な日本文化の一つであり、大学で研究するテーマでもありますが)、昔話や名作といわれる文学、偉人の伝記を読ませるべきだという主張が主流です。もっというと、暴力などの犯罪が登場する作品を読ませると、子供が暴力をふるうようになるからいけない、こんな子供になってほしいという理想の人物が登場する作品を読ませるべきだ――。そういう主張があるわけです。

ですが、本当に暴力などの犯罪が登場する作品を読ませると、子供が暴力をふるうようになるのでしょうか。オハイオ州立大学のジェフ・カウフマン氏らがこんな研究をしています(Geoff Kaufmanら、Changing beliefs and behavior through experience-taking、Journal of Personality and Social Psychology、2012)。その内容はというと、人は読書に熱中すると、その読んでいる物語に登場するキャラクターに感情移入し、自分の性格や行動がその登場人物に似てしまうというものでした。実際研究では、選挙の投票について書かれた本を読んだ人は、違う物語を読んだ人よりも、投票に行く確率が高くなるということなどが明らかになりました。本の主人公に感情移入してしまい、泣いてしまうということがありますが、実際に読んだ物語の内容が自分自身の行動や考えにも大きな影響を与えることが、明らかになったということなのです。

この研究結果をふまえて考えると、子供が読む本の内容が、子供の考え方や態度に影響を与えるといわざるを得ません。もちろん、読んだ作品すべてが影響を与えるわけではありませんが、どのような本を読ませるかは、保護者が十分に考えて選択しないといけないんです。人間には、健全で幸福な発達をとげるために各発達段階(年齢)で、達成しておかなければならない課題があります。それらを意識しながら、どんな人になってほしいのか。それらを意識して、本の読み聞かせなどを行ってください。

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著者プロフィール

平松隆円
化粧心理学者 / 大学教員
1980年滋賀県生まれ。2008年世界でも類をみない化粧研究で博士(教育学)の学位を取得。京都大学研究員、国際日本文化研究センター講師、チュラロンコーン大学講師などを歴任。専門は、化粧心理学や化粧文化論など。魅力や男女の恋ゴコロに関する心理に詳しい。
現在は、生活の拠点をバンコクに移し、日本と往復しながら、大学の講義のみならず、テレビ、雑誌、講演会などの仕事を行う。主著は「化粧にみる日本文化」「黒髪と美女の日本史」(共に水曜社)など。