第2局開催が危ぶまれた事件のあらまし

例の一件とは、やねうら王のソフト差し替え問題である。第1局終了後からネット上、特にtwitterで大きな話題になったため、ご存じの方も多いだろうが、本局を語る上で欠かせない要素なので触れておきたい。

ことの発端は第1局終了後の記者会見で、バグ修正のため第2局に登場する将棋ソフト「やねうら王」を新バージョンに差し替えて対局を実施する、と発表されたことに始まる。

やねうら王のソフト差し替えを発表する川上量生ドワンゴ会長。騒動はここから始まった

そもそも「第3回将棋電王戦」のルールでは「将棋コンピュータソフトは原則として「電王トーナメント」に出場した際のソフトウェアを使用するものとする(その後、主催者が定めた一定期間のみ改良を認める)」と規程されている。この中の「一定期間」は一週間と発表されていたので、バグ修正のためとはいえ、この時期のソフトの差し替えがルールに抵触することは明らかだ。

さらに問題だったのは、プログラムの修正はフリーズなどのバグ対策のみで、ソフトの棋力には一切影響がない、とされていたのにも関わらず、ソフトの差し替えが行われてみると棋力に大きな影響が出てしまったことだ。

やねうら王の開発者、磯崎元洋氏

ソフトの差し替えを申し出たやねうら王の開発者の磯崎氏と、それを認めたドワンゴとの間に認識の違いがあったことが原因のようだが、いずれにしろ電王戦を楽しみにしているファンの間に不信感が募ったことは間違いない。

そして、第2局のPVでは、この事件をさらに煽るような内容が急きょ加えられたこともあって、ネット上は炎上状態となってしまう。「やねうら王を失格にしろ」などの声も出て、第2局の開催が危ぶまれた。

ここに至って事態を重く見たドワンゴは緊急記者会見を開催。「やねうら王のソフト差し替え」に関して、非は全てドワンゴ側にあることを認め、ソフトの差し替えは中止し、元のソフトに戻して第2局を行うことを発表。これにより事態は沈静化し、第2局が無事開催される運びとなったのである。

川上会長が騒動の非を認め、全面的に謝罪したことで事態が沈静化した

対局への影響は

第2局の開始直後、控室では当然この事件が話題になった。対局直前に騒動に巻き込まれた佐藤六段に影響がないはずはない。

だが、佐藤六段はプロ棋士である。ひとたび盤の前に座れば、体調が悪かろうが、精神的に動揺していようが言い訳はしないのがプロだ。佐藤六段がプロとして戦う以上、騒動のことは忘れて、盤上の戦いに注目しよう、というのがこの日の控室の総意であったように筆者には感じられた。

対局場に入場した佐藤六段。ネタキャラとして有名だが、この日は期待されたカツラやまわし姿(国技館ということで期待する声があった)はなく、立派な和服姿だった。ある意味、騒動の一番の影響は佐藤六段のネタ封印だったかもしれない

さて、いろいろあったが、ともかく対局は開始された。
第2局の先手はやねうら王だが、その初手にいきなり注目が集まる。

やねうら王のモニター画面

対局開始前、本局の観戦記を担当する河口俊彦七段が磯崎氏に話を聞く

盤側に座るのは左から貞升南女流初段(記録係)、片上大輔六段(日本将棋連盟理事)、有野芳人七段(立会人)、河口俊彦七段(観戦記)、渡辺弥生女流初段(記録係)