現在もっとも勢いのある俳優というと、多くの人が堺雅人の名前を挙げると思う。社会現象にもなった大ヒットドラマ「半沢直樹」で一世を風靡し、「倍返しだ!」という決め台詞が流行語大賞にもノミネートされたのは記憶に新しい。

そんな堺雅人がこれまで演じてきた役を振り返ると、実に多岐にわたっていることに気付かされる。たとえば映画『クライマーズ・ハイ』では日本航空123便墜落事故を取材する新聞記者、『ゴールデンスランバー』では首相暗殺の濡れ衣を着せられた男、大河ドラマでは新選組総長山南敬助や徳川家定役と、まさにオールジャンルなのだ。

4月27日にWOWOWで放送されるドラマWスペシャル「パンドラ~永遠の命~」の放送にあやかり、本稿では「ひまわりと子犬の七日間」「大奥~永遠~[右衛門佐・綱吉篇]」という2作品を紹介しながら、作品によってがらりと表情を変える天性の俳優・堺雅人の魅力に迫ってみたい。

「ひまわりと子犬の七日間」

(C) 2013「ひまわりと子犬の7日間」製作委員会

「ひまわりと子犬の七日間(WOWOWで5月1日放送)」は、保健所で行われる犬の殺処分という重いテーマを扱った心あたたまるヒューマン(アニマル)ドラマだ。堺雅人は宮崎県東部保健所の職員・神崎彰司を演じている。

彼の仕事は二つある。ひとつは保護した野良犬たちの新たな飼い主を探すこと。そしてもうひとつは、どうしても飼い主が見つからなかった犬を殺すことだ。

もう、この設定だけで、堺雅人が演じる役がどれだけ難しいかがわかってもらえると思う。知識としては「殺処分される犬がいる」ことは知っていても、実際にそれを行う職員が、どんな気持ちで、どんな表情で業務を遂行しているのかは知らない人がほとんどだろう。当然、堺雅人だって、この映画を撮るまでは知らなかっただろうと思う。

役者の仕事は他の人になりきることだ。なんて、簡単に言うけれど、それはたやすいことではない。表面上だけ演じるのではどこか薄っぺらいものになってしまう。表情や言葉、一挙手一投足に説得力を持たせなくてはならない。「ひまわりと子犬の七日間」で堺雅人がさらりとやってのけているのは、そういう難度の高い演技なのだ。

本作には、かつて人間から愛情を受けて育ったものの、飼い主と離れ離れになり、逆に人間に不信感を抱くようになってしまった犬の"ひまわり"が登場する。仔犬と一緒に保護されたひまわりは、ケージの中に入っても決して人間に心を許さず、歯をむき出しにして抵抗する。

凶暴な犬には引き取り手がつかない。保健所にとってもっとも恐ろしいのは、保健所から出た犬が人に傷を負わせ、市民からクレームがくることだ。だから、ひまわりのような犬は殺処分対象になってしまう。

そんな中、堺雅人演じる神崎はたった一人、ひまわりと心を通わせようとする。神崎には男手一つで育ててきた娘がおり、ちょうど「犬を殺処分する仕事をしている」ことを知られて口を利いてくれなくなっていた。

神崎にとって、ひまわりと心を通い合わせ命を救うことは、娘と向き合うことでもあった。ひまわりを見つめる堺雅人の眼差しはとてもやさしく、彼の目を通して観客の心も癒やされていく。本作には堺雅人が「半沢直樹」で見せたようなクレバーさではなく、父性が満ち溢れている。

果たして、ひまわりは心をひらいてくれるのか。そして、神崎は娘と分かり合えるのか。人と犬、そして親と子の関係性をもう一度考えさせてくれる秀作だ。