『Gのレコンギスタ』はテクノロジーのアンチテーゼか

富野監督は新作『Gのレコンギスタ』についてこう語る。

富野監督:『Gのレコンギスタ』に関していうと、くやしいけどこの歳になってしまうと50年後100年後の地球の映像が思い浮かびませんでしたので、やめました。そのあとの物語を作るということで『Gのレコンギスタ』というタイトルにしましたし、レコンキスタから取った造語を用いました。子供たちに残していく物語に殷々鬱々した人類が絶滅していくような物語を作るのはおじいちゃんとしてはイヤなんです。だから明るく楽しいものを作ることにした。

富野監督:先ほどから言っている「アニメの便利なところ」があるので、科学技術をこういう風に使ったらダメだぞという、サンプルになるようないくつかの問題を放り込んでいます。宇宙エレベーターというものがありますけど、これを交通機関として使ったらどうなるか? という話が、現実でいえばこんな規模の宇宙エレベーターなんてあるわけないじゃないかってなるんですけど、ガンダムの宇宙世紀の以後の物語であれば、ミノフスキーフライト(粒子)によって成立します。これと宇宙エレベーターの構造論を合わせると交通機関として成り立つ。が、そんなもんハナからできるわけねえじゃねえか! ということをわかれ! という話!(場内笑)

この話で思い出すのがスペースコロニーだ。人は宇宙に住む手段としてコロニーを発明した。しかしコロニーという偉大な発明品は地球に落とされ、恐るべき破壊兵器なってしまった、というのがガンダム第一話冒頭のナレーションである。これと同じことが宇宙エレベーターで起こるのではないか、そんな予感がある。

富野監督:これをもっとリアルな話にするとカドが立ちます。ボクは日本宇宙エレベーター協会の会員でもありますから(場内笑)。リアリズムだけで社会の問題に挑んでも、それだけじゃ突破できません。とりわけ政治家と経済人がいるところでは突破できません。突破するためには、政治家や経済人になる「子」たちに10歳から15歳ぐらいまでの間に「お前ら根本的に考え違いするなよ!」ってことを刷り込んでおくんです。そしたら50年後に首相やってるヤツに「お前のやってることはバカだろーっ!」って言えるでしょ? そういう物語を作っていきたいということで、ぜひ! 皆さん方は見る必要ありません! お子たちに見せてあげてください! 本来アニメというのはそんなもんだろ!! ってことで、いいですよね?(笑)。

『Gのレコンギスタ』先行PVのガンダムっぽいアレは何だ!?

さらにガンダム35周年特別サイトで公開されている『Gのレコンギスタ』のPVが上映され、この映像に関して富野監督は、これを見たガンダムファンが違和感を感じるはずだといい、それについて説明してくれた。

富野監督:この映像に抵抗感があるのは当たり前です。ガンダムじゃないからです。だけどガンダム風にしてあります。それの気持ち悪さって何なんだっていうと、35年前にガンダム1話を見た人は、何をやってるのか全然わからないって言ったんです。理解されるのに5~6年かかった。それを考えるとこれはかなりわかりやすくなっている。が、今わかる必要は一切ありません。これ、同じもの(ガンダムっぽいもの?)が飛んでいく映像が2回ありますが、あれなーんだ? 番組見ないと絶対にわかりません。そのくらい変な画なんです。

普通のPVであれば、主役機だと思われるアレは、本編見ないと正体が分からない! と富野監督は言う。もう本当にやってくれた! としか言いようがない。さらに…

富野監督:『THE ORIGIN』も『ガンダムUC』にしても「えっ? わかんね!」って画はどこにもありません。分かる! 気持ちいい! って~そんな大人が気持ちいい画を作ってどうする? ってことなので、こういう映像を作りましたという意味で気に入ってます。なんで姉ちゃんが涙流す画がいきなり出てくるんだ? って知るかよそんなの!!(場内爆笑)って言い切れる自信はあります。お子たちには健全なロボットアニメですのでぜひおすすめいただきたい。……これでいいのかな?

最後はいい感じにまとめようとしたものの、我々がよく知っている、そして期待している富野監督の気風がものの見事に現れていて、うれしくなってしまう。

他にも二足歩行ロボットの未来について、『鉄腕アトム』とモビルスーツをからめたトークや、発展するテクノロジーによって人類が退化していってはいないか、といったシリアスな話もあり、非常に濃厚な富野ワールドが展開された。ゲストの加藤氏、セドリック氏も富野監督の唐突な(しかもかなり雑な)話の振りに四苦八苦する場面もあったが、それにうまく応えて話に筋を通していったのはお見事。何よりここまで言った以上は『Gのレコンギスタ』が甘っちょろい作品になることはありえないと、確信できる熱い内容だったのは特筆すべきである。

富野由悠季、今日本で一番気迫に満ちた72歳かもしれない。なおこのトークセッションの模様は後日バンダイチャンネルでアーカイブ配信されるという。この雄姿を括目せよ!