猫の保護・譲渡活動を行うNPO法人キャットガーディアンは、このほど猫の譲渡数が3,000頭を突破したことを発表した。これを受け、今回はこの猫カフェ型シェルターを訪れ、代表の山本葉子氏にインタビューを行った。
東京キャットガーディアンとは
東京キャットガーディアンとは、猫の保護・譲渡活動を行うNPO法人。その活動内容は多岐にわたる。
■主な活動内容
・猫を保護し、適正な飼育者に譲渡するためのオープンシェルターの運営
・動物愛護の精神や終生飼育のための啓蒙活動
・電話・メールでの相談窓口(年中無休)開設
・飼い主のいない猫のための不妊・去勢用の「そとねこ病院」の運営
・猫カフェとの業務提携を実施し、猫の保護・譲渡先を拡大
開放型シェルターとは
また、同法人では、日本初の開放型シェルターを運営している。猫は環境の変化に弱い生き物。常設のシェルターを設けることによって、猫がストレスを受けにくい環境を提供しているのだ。「開放型」と銘打ってある通り、このシェルターには誰もが自由に入ることが可能。猫カフェ、猫グッズのショップとしての機能も兼ねており、譲渡を希望していない人でも気軽に遊びに行くことができる。
この開放型シェルターのおかげで、譲渡を希望されにくい成猫やハンディキャップのある猫たちの譲渡数も増やすことができたとのこと。
今回、実際に大塚シェルターに足を運んでみた。入り口で手を消毒した後、スリッパに履き替えて中に入ることができる。入り口付近にはカリカリやトイレなどの猫の生活用品や、猫雑貨が販売されており、これらの売上金も活動のために使われるとのことだ。
シェルター内部は、白を基調としたインテリアで統一されており、清潔感が漂う空間だった。キャットタワーや猫じゃらしなど、猫たちが喜ぶグッズや設備が整えられており、この日シェルター内部にいた保護猫たちはのびのびと過ごしていた。
他の猫とじゃれあって遊ぶ子や、隅っこで日向ぼっこをする子、こちらに向かってすりよってくる子など、性格は実に様々。どの子もとても良い毛並みをしており、きちんと手入れされていることが見て取れる。
シェルターの一覧
現在展開されているシェルターは下記の通り。
■大塚シェルター
場所:東京都豊島区南大塚3-50-1 ウィンドビル5F
オープン時間:平日14:00~17:00(火曜日を除く)/土日祝日13:00~17:00
夜のガーディアン(火曜日を除く)19:00~21:00
■西国分寺シェルター
場所:東京都府中市武蔵台3-43-9エクセレントTR1F
オープン時間:平日14:00~17:00(火曜日を除く)/土日祝日13:00~17:00
■保護猫カフェ蒲田とらくん
場所:東京都大田区蒲田5丁目20-7 K520ビル8F
オープン時間:11:30~22:00 不定休
入場料:250円/15分
※大塚シェルターと西国分寺シェルターに関しては、入場料などは設けていないが、保護活動を継続するための寄付をお願いしているとのこと。
代表の山本葉子氏にインタビュー
――まず、猫の保護・譲渡活動を行おうと思ったきっかけを教えてください。
もともとは個人シェルターから始めたものでした。私は27歳のときに起業をし、会社運営をしながら母と住むつもりで近くに一戸建てを建てたのですが、パーキンソン病が悪化した母が自宅では介護できず一人住まいになり、徐々に猫を預かる保護活動を近隣の方とする事なったという訳です。
――そこから徐々に活動が広がっていったのですね。今現在行っている猫の保護活動の最大の目的は何ですか?
猫をこれから飼う人にとっての選択肢を増やすことです。今すぐ飼いたい人にとっての猫の入手方法は、週末に開催している里親会やペットショップが主流でした。保健所でも猫を譲渡してもらうことは可能ですが、保健所はどうしても敬遠される施設の為、アクセスの悪い場所にあります。車をお持ちでない人にとってはたどり着くことすら難しいのです。また、行政の担当さんたちは超人的な努力をしていらっしゃいますが、基本的に保健所は動物を飼育する場所ではなく、そこで処分されてしまう動物たちの事を想像するとやはり一般の方は入りにくい場所です。
それゆえ、保健所にいる猫たちは、例えて言うなれば「飼い猫になるという市場」に出ることができないのです。彼らを処分所から請け出し、「可能な限り良い常態で市場に出す」ことが、我々の仕事だと思っています。「シェルターから伴侶動物をもらう」という選択肢を提供することが目的なのです。
――猫を家族として迎えたいと希望する方には、面談を行っているそうですが、面談ではどのようなことを話し合うのでしょうか?
猫との生活について「その方の常識」をお聞きしています。前の猫の飼い方や初めての場合は友人の猫についての考え方など…。終生飼育の努力をしてくださるのはもちろんですが、猫の脱走防止対策を必要と思い、実施する能力があるかどうかということも大事なポイントです。迷子猫の悲しい最後を我々は沢山見ています。人生の中で何らかの不都合があっても、最期まで弱い物を優先して守る覚悟と力量のある方とお会いできると嬉しいです。
――活動を続ける中で、大変だったこと、つらかったことはありますか?
東日本大震災が起きた当時、捕獲器の貸し出しを行ったり、「被災動物110番」として終日電話を受け続けました。電話では、ありとあらゆる動物に関するご相談を受けました。生きて再会できる確率は大変低い事がわかっていましたが、飼い主さんは誰かに相談せずにはいられない…。電話がひっきりなしにかかってきます。「もし生きていて、会えたときはどうすればいいのか」、「きっと弱っているから、一番先にすべきことを教えてください」など…。「まずは水分補給を。出来ればブドウ糖もなめさせてあげてください。急に沢山のご飯を上げてはかえって負担になります」など、一つ一つ丁寧に対応しましたが、立ち入れない場所での話です、無力だと思いました。
また、日常的につらい内容の電話も受けます。「弱っている子がいる。受取ってくれるのなら保護するが・・・」、「家の猫を飼い続けることができなくなった。保健所しかないのかも」というような…。こういうお電話に対応し続けるのはきついです。でも、私どもに電話をかけてくる人たちは、それがどんなに無茶な要求でも「助かる方法はないのか」という気持ちを持っているんです。それに気づいてからは、少し気持ちが軽くなりました。
――これまで受けたご相談で、印象的だった・あるいは嬉しかったエピソードなどあったら教えてください。
「猫なんか大嫌いなんだ!」受話器から聞こえてきたおじさんからの第一声はこれでした。どうやら家の天井で猫が赤ちゃんを産んだらしいのです。棒で天井をつつくと、母猫は子猫を咥えてどこかに引っ越した様子。ところが、一匹だけ母猫に置いていかれた子がいたんです。しかもその残された子猫が壁の裏側に落ちてしまったらしく…。それでおじさんは私のところまで電話をしてきたんですね。
結局、説得する事1時間…おじさんは壁を壊して子猫を助けてくれました。でも、「早く引き取ってくれ、今すぐ取りに来てくれ」と言っていました。私は「責任をもってその子猫をお受けします。でも、場所を用意するのに2~3日だけでいいので、その間子猫のお世話をお願いできないでしょうか? そのやり方は電話でずっとお付き合いします」と伝えました。3日間、おじさんはかいがいしく子猫にご飯をあげたり、トイレの世話をして便の状態を話し、歯が立派になっただの、ひざで寝ちゃっただの、だんだん親ばかトークが増えてきて…最後には、「しょうがないから家で飼うわ」と(笑)。お礼を言って電話を切った後、私はうれしくて一人で大笑いしてしまいました(笑)。
――それは聞いていて顔がほころびますね(笑)。そのほか、活動を行う中で、もっとも苦労されていることは何ですか?
やはり、資金面ですね。ありがたいことに、支援物資の届かない日はありません。その一方で、現金は常に不足しています。HPにもあまり悲壮感が無いせいでしょうか(笑)。
また、活動に必要な現金を徴収するため、運営している各シェルターでは、来てくださる方から寄付をお願いしております。これは、入場料という形では現金を徴収していないということです。入場料を頂くと、第一種動物取り扱業となり、センターから猫を引き取ることができなくなります。行政からも、「第一種動物取り扱業にはならないで欲しい」という意向を受けており、入場料を頂くことができないのです。そのため、ご寄付のお願いをしております。
――今後はどのような活動展開を予定していますか?
今後は、さらに施設を増設したいと思っています。"ひとつの行政にひとつの施設がある"くらい増やしたいのです。行政と技術提携をし、消毒や隔離の仕方など、様々なことをプロとしてレクチャーさせていただく段階に入っています。活動の為には継続的な資金が必要ですので、いろんな試みをしています。
また、有名猫ブロガーさんのカレンダーやグッズをを毎年販売させていただいています。10月からは、ペット保険の代理店も始めました。これは業界初の試みです。ペット産業を保護団体が行うのです。業界のあり方を非難するより、保護団体がやって収益を作りながらより良い形を提示できればと思っています。
――最後に、今後このシェルターを訪れることになるかもしれない人たちに対して一言お願いいたします。
気軽に遊びに来てみてください(笑)。猫の飼育希望者に対して、私たちは真摯な態度で臨んでおります。その中で、皆様がここへ遊びに来ること自体が、猫を助けることにつながるシステムを運営しています。
保護活動自体をご存じない方も、可愛い猫に会いたいというそれだけの動機でも何の問題ももちろんございません。来ていただけるだけでとても嬉しいです。シェルターでは、猫粘土教室やポストカード展など次々とイベントを開催しています。楽しく参加していただけたら幸いです。
――ありがとうございました。